最新記事

ホテル

新型コロナウイルスで客足遠のいたホテル業界、「五輪特需」も消えて存亡の危機

2020年3月29日(日)11時11分

空き室だらけ、通りは閑散

外国人観光客、とりわけ中国人への依存度を高めていた大阪のような都市にとって、コロナウイルスの感染拡大の打撃は大きく、地元の雇用や中小企業の経営に対する影響は深刻だ。

世界的な不動産会社ジョーンズ・ラング・ラサールによると、昨年、東京圏の商業用不動産投資が減少する一方、大阪圏は着実に増加していた。

大阪は不動産ブームを背景に、ホテルの客室数が2015年からの3年間で2万1000も増加した。今やその多くは空室だらけ。最近開業した「ホテルビスタ大阪なんば」 もその1つだ。

121部屋の同ホテルは、安倍政権が全国の学校に休校を要請した2月27日、大阪の道頓堀にオープンした。支配人の猪川久男さんは、客のいないロビーの壁に描かれた金色の巨大なトラの前に座り、今のタイミングで海外旅行客を呼び込もうとしても意味がないと話す。

「とりあえず料金をコントロールして、国内の観光なり出張のお客さんに少しでも来てもらいたい」と、猪川さんは語る。

ただ、大阪でも新型コロナウイルスのクラスター(集団感染)が確認されており、新たな懸念材料となっている。

全国約250のホテルが加盟する全日本シティホテル連盟は、夏まで新型コロナの流行が続くと、年内にかなりの数のホテルが倒産すると予測する。清水嗣能会長は「国が観光立国を掲げる中でホテルを建ててきたが、真っ先にあおりを受けている。人の動きが止まり、どうしてくれるのか、という思いはある」と話す。

観光庁によると、訪日外国人客と日本人の国内外旅行を合わせた「旅行・観光消費」は、2017年に472万人の雇用を誘発。経済効果は国内総生産(GDP)の5%に当たる27兆円だった。

業界団体は、需要の大幅減少を乗り切るために公的支援を求めている。

ほぼ全滅に近い

人気の観光地・京都では、外国人客の減少が昔ながらの旅館の存続を脅かしている。錦市場近くにある松井旅館の4代目若女将、松井もも香さんはここ数週間、キャンセルの電話対応に追われた。例年、桜が満開となる春は最も忙しい時期だ。

若女将によると、数年前から予約していた団体客のほとんどが、新型コロナウイルスのためにキャンセルあるいは延期してきたという。キャンセル料を払ってもらえたのは、ほんの数件だった。

「今のままの状況が夏以降も続くと厳しい。夏までが限界だと思う」と、松井さんは話す。約100人の従業員の多くは自宅待機をしている。

全国2500の中小旅館・ホテルが加盟する日本旅館協会によると、東京五輪を控え、加盟社の多くが最近の観光ブームで得た収入を改装費用に当ててきた。

今やその多くがキャンセルの嵐に見舞われ、倒産を避けるため金融機関と交渉していると、日本旅館協会の会長で、京都の松井旅館から少し離れたところで旅館「こうろ」を経営する北原茂樹さんは話す。

「3月は何割(客が)減ったというよりも、ほぼ全滅に近い」と、北原さんは語る。

(翻訳:宮崎亜巳 編集:久保信博※)

斎藤真理 村上さくら

[大阪市 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・中国、感染しても無症状者は統計に反映せず 新型コロナウイルス感染爆発「第2波」の懸念
・新型コロナウイルスをめぐる各国の最新状況まとめ(28日現在)
・デーブ・スペクター「日本がオリンピックを美化するのはテレビのせい」


20200331issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月31日号(3月24日発売)は「0歳からの教育 みんなで子育て」特集。赤ちゃんの心と体を育てる祖父母の育児参加/日韓中「孫育て」比較/おすすめの絵本とおもちゃ......。「『コロナ経済危機』に備えよ」など新型コロナウイルス関連記事も多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中