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貿易戦争

経済を超え政治思想の不信へ 米中貿易協議が「期待薄」な理由

2019年9月19日(木)11時07分

米国と中国は今週貿易協議を再開し、次官級会合を行う。ただ両国が何らかの合意に達するとしても、それは非常に表面的な解決策にとどまるだろう。写真は米中の国旗。上海で7月撮影(2019年 ロイター/Aly Song)

米国と中国は今週貿易協議を再開し、次官級会合を行う。ただ両国が何らかの合意に達するとしても、それは非常に表面的な解決策にとどまるだろう。

通商問題の専門家や企業幹部、両国政府高官などの話を総合すると、両国の貿易戦争はもはや政治的、思想的な闘争に突入し、単なる関税のやり取りという範囲を大きく超えている。

中国共産党が、「官営」の経済を根本から改めろという米国の要求に屈する公算は乏しいし、米政府もいくつかの中国企業を国家安全保障上の脅威とみなす考えを撤回するつもりはない。

クドロー米国家経済会議(NEC)委員長は6日、米中の対立解消には10年かかってもおかしくないと発言。中国人民銀行(中央銀行)の有力な政策顧問だった余永定氏はロイターに、中国は合意を急いでいないと語った。

トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は、今週の次官級会合の結果を受け、10月に暫定的な合意を打ち出して株式市場を安心させたり、お互いに政治的な勝利だと宣言したりするかもしれない。

しかし元米通商代表部(USTR)高官のケリー・メイマン・ホック氏は、合意が成立しても、米国や他の西側諸国が求めている「中国の構造的な改革に効果的に対応できそうな公算は非常に乏しい」と話した。同氏は現在、コンサルティング会社マクラーティー・アソシエーツのマネジングパートナーを務めている。

相互不信

中国は国有企業を支援し製品に補助金を提供している今のやり方を変えることには消極的だ。米国も、中国大手通信機器の華為技術(ファーウェイ)を安全保障上の脅威と認定し続け、新たな関税の発動をちらつかせている。

中国人民大学重陽金融研究院の上席研究員、何偉文氏は「協議の最終的な成果は、全ての関税の撤廃でなければならない。これが中国にとっての最低ラインだ」と主張し、協議の行方については楽観していない。

両国は5月にいったん協議が決裂して以来、双方が約束を履行せず、非難合戦を展開してきた。現在も対立は白熱化しているものの、トランプ氏がツイッターに一言投稿すれば事態は好転する可能性がある、というのが専門家の見方だ。

元米商務省高官で戦略国際問題研究所(CSIS)研究員のウィリアム・ラインシュ氏は「米中は好ましくない雰囲気の中でこう着状態にある。両首脳ともこれまで自分たちの手で協議に打撃を与え、互いに信頼できなくなっている」と説明した。


190924cover-thum.jpg※9月24日号(9月18日発売)は、「日本と韓国:悪いのはどちらか」特集。終わりなき争いを続ける日本と韓国――。コロンビア大学のキャロル・グラック教授(歴史学)が過去を政治の道具にする「記憶の政治」の愚を論じ、日本で生まれ育った元「朝鮮」籍の映画監督、ヤン ヨンヒは「私にとって韓国は長年『最も遠い国』だった」と題するルポを寄稿。泥沼の関係に陥った本当の原因とその「出口」を考える特集です。

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