最新記事

日本社会

それでも「現金」にこだわる人たち キャッシュレスに移行しない男女3人の心理

2019年1月21日(月)18時10分
三矢正浩(博報堂生活総合研究所・上席研究員) *東洋経済オンラインからの転載

Bさん:お得なことに乗りたい気持ちはあります。だから先日、還元キャンペーンをやっていたQRコード決済を利用してみました。でもやっぱり、お金を使った感覚がよくわからないですね。還元される金額も、「ポイントをお得にもらえたな」くらいの気持ちなので、それを使い切ったらもう利用しないと思います。

Cさん:私は正直、「損をしている」「無駄なことやっているな」と感じることも多いです。ポイントやマイルがつかなかったり、現金の引き出しや振り込みで手数料がかかったり......。でも新しいことを始めるのがおっくうというか、今の生活のやりくりリズムを崩すのがいやで、ずっとそのままきている感じですね。

キャッシュレスだからこそ、お金の"見える化"は必要

Q. 世の中はキャッシュレスに向かう動きが強くなっていますが、何か感じることはありますか? この先も「現金派」でいきますか?

Aさん:最終的には自分もそっち側(キャッシュレス)にいくとは思うんですけどね。電子マネーの種類が増えると、お金がどんどん分散するのがいやです。前に友達に「(借りたお金を)送金アプリで払おうか?」って言われて、本気で「やめて!」と。

Bさん:僕は変わらず現金派だと思います。管理のしやすさが大事なので。お金の動きが一元的に把握できて、"見える化"されるようになれば変わるかもしれませんが、消費増税対策で多少ポイントが還元されるくらいでは、あまり動こうという気になりません。

Cさん:実は私、クレジットカードを作ろうかとちょっと思っていて。さすがにもうそろそろ1枚くらいは......(笑)。でも社会がお金をキャッシュレスにしていくのなら、目に見えなくなったお金を誰でもきちんと管理できるようにしていくことも、セットじゃなきゃいけないと思います。使いすぎを警告してくれるとか、支出とお金が減る時期のタイムラグを見やすく示してくれるとか。そういう仕組みが必要な人はいると思います。

......いかがでしょうか。実は、筆者自身が極力キャッシュレス派ということもあり、現金派の人たちがなぜ現金を重視するのか、興味深く伺いました。印象的だったのは、

・目に見えて実感できる状態で
・時間軸は"現在時点"で

お金を扱いたい、という意識が強かったこと。ポイントなどのインセンティブよりも、そのスタンスを守ることが3人にとっては大切なようでした。キャッシュレス推進はややもすると、各陣営の「メリット競争」になってしまいがちですが、社会の隅々にまで浸透させようとするならば、やはり「デメリット意識の解消」を根気強くやっていくことが必要かもしれません。

また、AさんとCさんについては、ご家族の生活スタイルや教えに少なからず影響を受けていることも印象的でした。考えてみれば当たり前ですが、次代の生活者がどうお金と向き合うかは結局、今の、そしてこれから生まれてくる子供たちに対して、私たちがお金をどんなふうに扱い、教えていくかが大きく影響を及ぼすことでしょう。

平成に大きく変わっていったお金のカタチ。「目に見えて減る」ということが実感しにくくなってきたこの道具に、ポスト平成の生活者がどんなふうに向き合っていくのか。引き続き注視していきたいと思います。

【参考情報】
「生活定点」調査概要
調査地域:首都40km圏、阪神30km圏
調査対象:20〜69歳の男女3080人(2018年・有効回収数)
調査手法:訪問留置法
調査時期:1992年から偶数年5月に実施(最新調査は2018年5月16日〜6月15日)
※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米国株式市場=小幅高、利下げ期待で ネトフリの買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中