最新記事

インタビュー

日本で中小企業が激減している根本的な理由は何か?

2018年2月11日(日)17時58分
塚田紀史(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

なぜ中小企業が激減しているのだろうか(写真:Marina_Poushkina-iStock)

1986年の87万をピークに製造業事業所数は今や半減。日本から中小製造業は消えてしまうのか。『日本の中小企業』を書いた明星大学経済学部の関満博教授に聞いた。

中小企業が激減

──長年現場を歩かれた実感は。

とにかく事業者数の激減ぶりはすごい。とりわけ製造業は減少が止まらない。

個別産業への訪問をずっと続けているが、最近遭遇したのはたとえば糸染めや印刷製本関連の打ち抜き。糸染め業者は30年前に全国に1000以上を数えたが、今80。東京に限っていえば、90あったものが今や8にとどまる。装置産業の糸染めは、海外にミシンとともに出ればいい縫製と異なり、繊維関連でも国内に残った。残ったのはいいが、仕事は100分の1以下。儲からなくなって後を継ぐ人が極めて少ない。

もう1つの打ち抜きは簡単にいえば厚い紙を打ち抜く作業を手掛ける。ピーク時、全国に100ぐらいあったのが、今は5~6。そのうち続きそうなのは1業者のみ。ここだけは後継ぎがいる。

──創業も少ない?

国は新規創業を促そうと、各種の政策を打ち出している。ベンチャーキャピタルの創成やインキュベーター施設の開設もその一環。だが、それも閑古鳥。IT関係を含め創業意欲が非常に低下している。

数が減る一途なのは初期投資額が大きすぎるから。まともなものづくりをするうえで特にそう。今や中古旋盤1台を50万円で買って始めるといったのでははなからダメで、高額のマシニングセンターや放電加工機を入れないとスタートできない。それだけで1億円かかる。30代前半以下の男に1億円用意しろと言ってもそれは無理だ。とても始められない。

──飲食店や介護福祉では創業が目立ちます。

今、創業でいちばん目につくのは女性が手掛けるカフェ。数百万円つぎ込む。ただこれも、開業から短期で消えていくか、「居抜き」で誰か代わりの人が入る形が多い。創業が旺盛といえるのは介護福祉のみだ。ケアマネジャーや訪問看護の人が常駐して、住宅街のガレージを改修して事務所が作られる。この業種は増えているが、儲かる商売ではない。介護保険制度の中でやっているのだから、事業ともいえない。ほとんどボランティアみたいなものだ。

事業所は減り、新規創業は芳しくない。この面でも一つの時代が終わりつつある感じがする。

日本での承継の難しさ

──後継ぎが確保できないから?

よく知らない人は「親子でなくても継げる技能のある人がいればいいのでしょ」と言うが、仕組みのうえで事実上日本では無理なのだ。第三者が継ぐのを金融機関が認めない。たとえオーナー社長が指名しても、その人は代表権を持てない。貸金を保証する能力がないからだ。最近、名刺に社長とあるが、代表取締役と書いていないケースをよく見掛ける。オーナーの債務の保証がないかぎり、事実上承継にならない。

社長指名を受けても自身の妻から断られるケースも少なくない。「このちっぽけな住まいも担保に入れるぐらいなら、定年までサラリーマンで十分。あとは年金をもらって小さく生きましょう」と。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハンガリー首相と会談 対ロ原油制裁「適

ワールド

DNA二重らせんの発見者、ジェームズ・ワトソン氏死

ワールド

米英、シリア暫定大統領への制裁解除 10日にトラン

ワールド

米、EUの凍結ロシア資産活用計画を全面支持=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中