最新記事

日本企業

「コレはないわ」な丸焼き機をパナソニックが製品化した理由

2018年2月2日(金)16時55分
山田雄大(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

"塊肉を回しながら焼く機械"は、「新しい何か」になりうるのではないか。これをなんとか実現できないか――商品企画チームは走り出した。

最初に行ったのが"回すこと"の必然性の検証だった。見た目の派手さのためだけに回すのであれば、そんな商品が成功するはずがない。だが、回しながらゆっくり焼いていくと確かに肉はおいしく調理できた。ただし、回転して肉を焼くだけの家電ならマニア向けで終わってしまう。

ビジネスとして成り立たせるには、日常的に使ってもらえる商品に仕上げる必要があった。

回転して焼く「グリル」はもちろん、「オーブン」「燻製」「トースター」の4つの機能を高い次元で成り立たせること。これが正式な商品化への大きなハードルとなった。

実はとりわけ難しかったのがトースター機能だという。なぜか。

「トースターには短期間で表面をパリッと焼くことが求められるので、多くのトースターの庫内は熱の反射がしやすい材質で色も銀色が使われます。他の3機能、とりわけロティサリーグリルは脂が飛び散るので掃除しやすい加工をする必要があり、その性質はトースターに求められるものと正反対なのです」(石毛氏)

そうした相反する命題に対し、ヒーターの配置や出力制御プログラムの工夫でトースターとしても満足できる焼き上がりを実現することができた。

トースト機能のほか、主に技術面からより多くの消費者に受け入れられる機能を実現できるメドがつき、正式に商品化のゴーサインが出たのは2016年夏だった。

toyokeizai180202-3.jpg

焼き上がった肉。肉汁が落ち着くまで待つのが基本。撮影のため肉汁が溢れるタイミングでナイフを入れたが十分においしかった(記者撮影)

独自の回転機構を開発

そこからも一本道だったわけではない。

最も苦労したのは、最大の売りである回転機構の実現だ。串を刺す方式は使いやすいが、肉の内部に菌が入る衛生上のリスクから断念した。ならば、肉を挟めばいい。挟むなら上下で挟むか、左右で挟むか。いろんなアイデアを試した結果、いちばん確実に回すためにカゴに入れてカゴごと回す現在の方式に行き着いた。

そのうえで、誰もが使いやすい構造を探し求めた。操作性を考えれば、カゴへの食材の出し入れは庫外で行う必要がある。そのためにはカゴと回転軸を簡単かつ確実に脱着できなければいけない。

カゴと回転軸のそれぞれに5枚の羽のついたギアがかみ合う、現在の構造にたどり着くまで羽根の数や形状などで試行錯誤を繰り返した。

金型発注につながる最終図面までに要した試作品の数は通常の調理家電の倍以上。「かなりの難産。血と汗と涙の末にようやくできた。血は流していないけど、肉は何キロ食べたかわからない」(石毛氏)。

toyokeizai180202-4.jpg

5枚の羽のついたギア。これでカゴを簡単に取り外しができる(記者撮影)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、不法滞在者の送還拡大に言及 「全リソー

ビジネス

焦点:日鉄、巨額投資早期に回収か トランプ米政権の

ビジネス

香港取引所、東南アジア・中東企業の誘致目指す=CE

ワールド

米ミネソタ州議員射殺事件、容疑者なお逃走中 標的リ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中