最新記事

航空機市場

イラン経済制裁が生んだ「命がけの」老朽旅客機

長年、機体の更新ができず正規の部品も手に入らなかった旅客機市場には巨大なビジネスチャンスも

2015年7月17日(金)19時01分
フェリシティ・ケーポン

抜け駆け ロシアが売り込むジェット旅客機「スホーイ・スーパージェット100」 Luke MacGregor-REUTERS

 イランに対する経済制裁の解除が決まり、各国で高まっていた対イランビジネスへの関心が一気に噴き出した。その一例が、制裁下で極端に老朽化し、過去30年間で数千人が事故の犠牲になった航空機市場。

 ロシアは他国を出し抜き、早くも航空機の売り込みを始めている。売ろうとしているのは91年のソ連崩壊以降、ロシアが初めて開発したジェット旅客機「スホーイ・スーパージェット100」。ロシアのマクシム・ソコロフ運輸大臣は、記者団に対して両国間で販売交渉が進んでいることを認めた。

 世界の航空機メーカーにとっても無視できないチャンスだ。イランは400機の旅客機を買うために200億ドルの予算を用意しているという最近の報告もある。「特に大手のエアバスやボーイングにとっては、まとまった数の旅客機を販売できるチャンスだ」と、航空コンサルタントのアダム・ピラースキはブルームバーグに語った。

 ただ欧米の航空大手は乗り遅れ気味。「イランに対する制裁解除はまだ決まっただけで実施段階ではない。ルールに則ってどうビジネスを展開できるか見極めていく」と、エアバスは声明を出した。ロシアのフライングには苦々しい思いだろう。

部品も、闇市場で「海賊版」を入手

 経済制裁のおかげで、イランの航空機事情は惨憺たるもの。新型旅客機の導入は急務だ。ドイツの航空情報サイト「プレインスポッターズ・ネット」によると、イランの旅客機の平均年齢は27年で、70年代に製造されたモデルも残っている。その後の経済制裁で、新型機を購入するのが困難になったからだ。部品も、闇市場で「海賊版」を買ってくる有様だった。

 旅客機の老朽化は、重大事故にもつながっている。BBCによれば、過去25年間イランでは200回以上の航空事故が発生し、2000人以上が死亡している。昨年首都テヘラン近郊で発生した航空機事故でも、乗客40人が死亡した。

「イランでは、『運を天に任せて』飛行機に乗るしかなかった」と、世界でも著名な航空安全コンサルタントのクリス・イエーツは言う。「新型機の購入はイランの最優先事項になるはずだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダとの新たな経済協定、関税含まれる必要=トラン

ビジネス

米国株式市場=反発、原油安でインフレ懸念緩和

ビジネス

NY外為市場=ドルが対円・スイスフランで上昇、中東

ワールド

中国主席、カザフ大統領と会談 貿易・投資で協力へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中