最新記事

東南アジア

カンボジア労働者「集団失神」の謎

衣料品工場で100人以上が倒れる集団ヒステリーが頻発。その引き金は何なのか。

2014年4月8日(火)17時01分
パトリック・ウィン

原因不明 工場で倒れ、プノンペン市内の病院で手当てを受ける労働者(4月3日) Pring Samrang-Reuters

 それは、さぞ異様な光景だろう。100人を超える人々が、悪霊にでもとりつかれたかのように次々と気を失うのだから。

 だがカンボジアの衣料品工場では近頃、こうした出来事が不気味なほど頻発している。こうした工場では、おもにアメリカなどの先進国の衣料品店に並ぶ商品を製造している。カンボジア政府が度重なる調査を行い、H&Mなどの大手アパレル企業も労働環境の問題点を探ると約束してきたが、この不思議な現象はなくならない。

 今月は、スポーツ用品大手のプーマやアディダスの製品を作る工場で労働者の「集団失神」が起きた。他の多く例と同じく今回も、まず1人の労働者の具合が悪くなったのをきっかけに、最終的には100人以上が次々と床に倒れていった。

 プーマとアディダスは当局と協力し、事態の解明に努めると発表。倒れた労働者たちは手当てを受けたという。

 集団失神は今年はこれが初めてだが、これで最後とはならないだろう。政府統計によれば、2011年以降、カンボジアの工場では毎年1500人から2000人が仕事中に倒れており、多く場合は100人以上が同時に昏倒している。また彼らの多くは、病院に連れて行かれた後、短期間で回復している。

 カンボジアでの集団失神は以前から問題視されてきた。国連機関の国際労働機関は、すでに問題の原因について調査を開始。カンボジア政府も工場に職員を派遣し、労働者たちに失神を防ぐにはどうすればよいかをレクチャーしている。簡単に言えば、よく食べよく寝るということだ。

 だが、具体的に何が集団失神の引き金を引くかはまだ分かっていない。

 これまで候補に挙げられたのは栄養不足、高い気温、長時間労働、通気性の悪さ、有毒ガスなどなど......。一方で工場の経営者側は、前の晩に労働者たちが飲み過ぎるせいということで済ませたがる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中