最新記事

テクノロジー

ヤフー再建を任された天才女子の実力

グーグル副社長からヤフーCEOに転じたマリッサ・メイヤーの華麗な経歴

2012年9月4日(火)15時10分
ファハド・マンジュー(スレート誌テクノロジー担当)

IT女子力 天才エンジニアで買い物魔というユーザー目線が武器 ヤフーの経営は誰にとっても重荷だが、メイヤーはそういうときほど実力を発揮してきた

 1999年春、マリッサ・メイヤーは小さなネット検索会社から電子メールを受け取った。仕事のオファーだった。「あのとき私は遠距離恋愛中で、金曜の夜だというのに寮の自室でボウルいっぱいのパスタを貪るように食べていた」と、彼女はかつて私に語った。

 メイヤーはスタンフォード大学大学院でコンピューターサイエンスを学んでおり、世界中のIT大企業から就職の誘いを受けていた。「自分にこう言い聞かせていたのを覚えている。『リクルーターからのメールは即、削除する』って」 

 だが、メイヤーはそのグーグルという小さな会社には興味を抱いた。教授から噂は聞いていたし、修士過程でユーザーに合ったウェブページを推薦するソフトウエアを作っていた彼女の関心と、グーグルの技術的な目標はぴったりかみ合っていた。

 メイヤーがグーグルで面接を受けた日、社員は7人しかいなかった。大半がソフトウエアの技術者で全員が男。グーグル共同創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは、メイヤーならこういうオタクのグループにもすぐ溶け込めると確信した(面接では、皆で「K平均クラスタリング法」の話題で盛り上がった)。グーグルは即座に採用を決めたが、メイヤーはすぐには入社を決めなかった。

「多くの仕事のオファーのうちどれを選ぶか、真剣に考えなければならなかった」と、彼女は言う。メイヤーは春休みの間に、彼女の人生で最も成功した選択の共通点を探った。


成功のための2つの条件

「いろいろな選択を対象にした。学校の選択、専攻の選択から、夏の過ごし方まで。そして、選択がうまくいくときには2つの共通の条件があることが分かった」と彼女は言う。「1つは、できる限り頭のいい人たちと交われること。もう1つは、私にはちょっと荷が重いと思えるぐらいの選択であること。成功した選択のときには、いつも少し圧倒されるような感じだった」

 考えた末、メイヤーはグーグルを選んだ。Gメールなど主要プロダクトのエンジニアとして13年間文句なしの大成功を収めてきたが、彼女は先へ進む決断をした。メイヤーは先週、経営再建中のヤフーのCEOに就任すると発表したのだ(妊娠中だということも)。

 ヤフーを率いるという決断は間違いなく、メイヤーの「成功する選択の条件」の2つ目には合致している。彼女は、インターネット業界で最も重い慢性病に侵された企業の再建に取り組むという重荷を背負ったのだ。

 だが、第1の条件とは合わない。かつては多くの優秀な頭脳がいたし今もいるだろうが、ヤフーがIT業界で最も賢い会社だったことはない。

 近年のヤフーの問題は、どの分野でも1番になれなかったことだ。自らの使命を定義付ける代わりに、1つの流行から次の流行へと手を出していった。
最初はオンライン案内板としてスタートし、次は検索エンジンになり、それからポータルサイト、それからメディア企業になり、一時はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を目指した。

 この2年間のヤフーは、これらすべてを合わせた企業だ。業績は広告市場の好不況と毎年のように代わるCEOの好みに左右され、企業が最初に答えるべき問題には答えられないままだ。何のために存在する企業なのか。どんな問題を解決しようとしているのか。メイヤーがIT業界で最も優秀な頭脳を引っ張ってこようとするなら、その答えを見いださなければならない。

 メイヤーにそれができると言い切る自信が私にはない。メイヤーの能力を疑っているからではなく、ヤフーが抱える問題に解決策はないように見えるからだ。斜陽のIT企業が復活することはまれだ。最近の唯一の例外はアップルだが、アップルの再生の軌跡は簡単にまねできるものではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ホンジュラス前大統領釈放、トランプ氏が恩赦 麻薬密

ビジネス

テスラの中国製EV販売、11月は前年比9.9%増 

ワールド

イスラエル首相「シリアと合意可能」、緩衝地帯設置に

ワールド

黒海でロシアのタンカーに無人機攻撃、ウクライナは関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中