最新記事

テクノロジー

ヤフー再建を任された天才女子の実力

2012年9月4日(火)15時10分
ファハド・マンジュー(スレート誌テクノロジー担当)

アップルほど余裕はない

 1996年に創業者のスティーブ・ジョブズがアップルに復帰したとき、彼はアップルを一からつくり直した。彼は無数の無駄な製品をお蔵入りにし、最終的に大成功をもたらす新たなプロジェクトを始める。あくまで「最終的に」成功したのであって、そこに至るまでには長い道のりがあった。

 幸運なことに、当時は誰もアップルには期待をしていなかったので急ぐ必要はなかったし、忠誠心に厚いマニアの支持もあったので、アップルはジョブズの新プロジェクトが成功を収めるまでの泣かず飛ばずの時代を生き延びられたのだ。

 メイヤーとヤフーにそれほど余裕はない。確かに「ヤフー!学習」や「ヤフー!ノートパッド」「ヤフー!ウォレット」のように、なくしたほうがいい製品はいくらでもある。

 だが激烈な競争の中で広告を取るには、一方でキラーコンテンツも必要だ。それもすぐに。もしメイヤーが製品廃止の一方で新製品開発を怠れば、広告収入は激減して株価も下落するだろう。最大の財産である社員を引き留めておくことも難しくなる。

 キラーコンテンツの開発は容易なことではないし、メイヤーもそうした経験は積んでいない。メイヤーの最も重要な経歴は、グーグルのユーザー体験をつくる責任者だったことだ。グーグルのウェブデザインのほとんどは彼女が決めてきた。

 彼女はデータ重視のグーグルのカルチャーと、フィンランドのライフスタイルブランド、マリメッコの鮮やかなプリント柄や、デイル・チフーリの生命力にあふれたガラス彫刻など自分のセンスを融合させようとした。

 彼女の部下たちがどの青を使うか決められずにいたとき、メイヤーは41種類の青色に対するユーザーの好みを調査することに決めた。社内の伝統的なデザイナーたちはそれを好まなかったが、このエピソードは、お気楽なIT企業のイメージとは違うメイヤーの注意深さを示している。

 ヤフーでは、次の大きな波を見つけるためにメイヤーが頼れるデータはない。だがそこで再び彼女の強みが生きる。ほかのIT企業幹部の誰より、彼女は買い物好きだ。ソフトウエア技術者やメディア企業幹部ではない普通の人々が、ウェブに何を望んでいるか熟知している。グーグル社員に彼女の強みを聞くと、常に「マリッサはユーザーの声そのものだ」と答える。これは長い間、ヤフーに欠けていた視点だ。長いこと広告主や提携先、社内幹部を喜ばすための経営に腐心してきたヤフーは、いつの間にかユーザーのことを忘れてしまった。

 メイヤーがヤフーを再生できるかどうかについてはかなり疑問があるが、彼女が何を始めるのかを見るのは楽しみだ。うまくいかなかったとしても、気がめいるような失敗ではなく面白い失敗になるはずだ。

© 2012, Slate

[2012年8月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米データブリックス、資金調達後に評価額が1000億

ワールド

米国家情報長官、情報機関の現旧職員37人の機密取扱

ビジネス

FRB議長が住宅業界に「深刻な打撃」とトランプ氏、

ビジネス

米株価、ジャクソンホール会合時期は毎年堅調傾向 例
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 7
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 8
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 9
    時速600キロ、中国の超高速リニアが直面する課題「ト…
  • 10
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中