最新記事

債務危機

「緊縮にノー」を突きつけたギリシャの愚

緊縮財政策を進めてきた2大政党が惨敗したが、ユーロを離脱すればさらに過酷な耐乏生活が待ち受ける

2012年5月8日(火)17時21分
マシュー・イグレシアス

混迷 「反緊縮」派の勝利でギリシャ政局は混迷の一途 John Kolesidis-Reuters

 5月6日に行われたギリシャ総選挙で、大連立を組んで緊縮財政策を進めてきた2大政党が惨敗した。ギリシャ国民はEU(欧州連合)に押しつけられた「耐乏生活」に、明確なノーを突きつけたわけだ。

 フランスでも同じ日、緊縮財政による欧州危機回避を推進してきたニコラ・サルコジが大統領選の決選投票で敗北した。ヨーロッパ各地に広がる緊縮財政への「反乱」に喝采を贈ろう......と言いたいところだが、ことギリシャに関しては、この選挙結果はあまりに愚かな選択だと言わざるをえない。

 ギリシャでは「債務返済を拒否しよう」と訴えた極左政党や、移民の排斥を掲げる極右政党が躍進し、連立協議は難航。無政府状態に陥って再選挙が行われるというシナリオも現実味を帯びており、政治システムは崩壊同然だ。 

スペインやイタリアとは立場が違う

 過酷な財政削減策によってギリシャ国民が痛みを受けてきたのは事実だ。だが、ギリシャがユーロ圏から離脱した場合に訪れる苦しみに比べれば、現状はずっとましだ。

 ギリシャの置かれた立場は、スペインやイタリアとは違う。スペインとイタリアはユーロ加盟によって一時的な便宜を受けた過去はあるが、現在は他のユーロ加盟国から財政再建を強いられているだけで、格別な支援は受けていない。

 一方、ギリシャはユーロ参加の際に虚偽の申請をし、他国をだまして金を巻き上げ続けてきた。そして今も、ギリシャ危機が欧州全域に「感染」するのを防ぐという名目で、欧州から巨額の金融支援を受けている。

 もしギリシャが自らユーロを離脱していたら──あるいは、スペインかイタリアによってユーロを追い出されるというシナリオのほうが現実味は高いが──今よりもずっと厳しい耐乏生活を強いられるはずだ。ギリシャ人の生活水準がセルビアやブルガリア程度まで落ちる状況を想像すればいい。

 確かにユーロ体制には問題があるし、ECB(欧州中央銀行)の判断にも誤りはあった。だが、ギリシャ危機の根源は、この国が申告したほどの資金をもっておらず、しかもそれを穴埋めするだけの政治的、社会的に有効な手段がない点にある。

 恐ろしいのは、ギリシャの大連立政権が国民受けの悪い政策を進めるなか、有権者に残された選択肢が極右や極左しかなかったことだ。

 ギリシャの進むべき道について私は「答え」を持ち合わせていないが、他のヨーロッパ諸国にこれだけは伝えたい。まだ複数の選択肢が遺されているのだから、どうかギリシャのような袋小路に迷い込むことだけは避けてほしい。

©2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国万科の社債37億元、返済猶予期間を30日に延長

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 30日に

ビジネス

先行きの利上げペース、「数カ月に一回」の声も=日銀

ビジネス

スポット銀が最高値更新、初めて80ドル突破
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中