最新記事

インタビュー

彼女が「白熱教室」で学んだこと

2012年4月25日(水)18時37分
井口景子(本誌記者)

──ボーディングスクールや大学の教育を通じて、どんな力が身についた?

 何といってもクリティカルシンキング、つまり物事を批判的に考える力だ。日本ではMBAで学ぶことと思われがちだが、これこそボーディングスクールやリベラルアーツカレッジの教育の根幹をなすもの。なぜこの方法なのか、それがベストなのかなど現状に対して根本的な質問を投げかけることを、あらゆる授業のあらゆる場面で求められる。すぐに答えが手に入らなくてもとことん考える習慣を鍛えられたおかげで、アメリカで生き延び、自分だけの選択をしながらステップアップしていく上で大いに役に立っている。

 私の場合、10代から20代始め、つまり人間がまだ完成されていない段階でこういう経験ができたことに特に大きな意義があったと思う。大学院からの留学でももちろん遅すぎることはないけれど、20代前半までに感じたり、経験したことは人生の礎になるから。

──ボーディングスクールの特色とは?
 社会のリーダーに必要な力を育てるカリキュラムは極めて刺激的だが、それと同じくらい寮での共同生活も大きな学びの場だと思う。嫌な経験や寂しい思いもしたが、それを自分の意思で選んで乗り越えていく過程で、自分への確信を積み重ねていった。

 多感な時期に他人と同じ部屋で寝食を共にすることで問題解決能力も養われる。高校2年のとき、アメリカ人のルームメイトと極めて険悪な関係だった。彼女が部屋でずっと音楽をかけていることに腹が立って、私も日本の音楽を流して対抗したから(笑)。その後はどんどん関係が悪化し、寮の先生を挟んで和解のプロセスも経験した。今思えば、私もまず「やめて」と言うべきだったけれど、何事も経験(笑)。問題解決のすべを実体験できて面白かったし、負けない精神が身に着いた。

 もう1つ、大半のボーディングスクールが田舎にあることもポイントだと思う。お小遣いは週10ドルで、遊び歩く時間も場所もない。10代のうちに物質主義と切り離された環境になかば強制的に身を置くことで、何をもっているか(What you have)ではなく自分は何者か(What you are)を深く考えることができる。東京での女子高生時代、放課後に渋谷や池袋に行けばモノや人や情報があふれていた。その中から選ぶことに思考が集中してしまって、自分は何者か、どう生きたいかという本質的な思考をする余裕がもてなかった。

──ハーバードの卒業式の5日前に出産したお子さんを、アメリカで育てることにしたのはなぜ?

 親になって意識しているのは、自分の成功体験を娘に強要しないこと。それこそ、クリティカルシンキングをしていない証拠だから。私は日本で育って10代でボーディングスクールに留学して......という道をいいと思って進んできたけれど、娘にはより多様な選択肢を与えたい。その方法を考えたとき、アメリカで育てる方がいいと思った。

 あとの50%は自分のため。アメリカでの子育ては未知の経験だから、やってみたいという思いがあった。また自分がさらに成長できる場所はどこかと考えると、慣れ親しんだ日本に戻った場合の成長率と、初めての土地に乗りこんでキャリアと生活を一から築くことによる成長率を比べたとき、後者のほうが高いと考えた。

 といっても、決めるまで半年くらい悩み続けた。そんな自分を客観的に見て、ここまで悩むということは(日本に帰国して就職するという当初の計画が)しっくりこないのだから、変えなくてはいけないと思った。人生の大きな決断とは、極めて感覚的な直感と論理的な思考が融合して生まれるものだと思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国と中国、外交・安保対話開始へ 3カ国首脳会合前

ワールド

岸田首相、日本産食品の輸入規制撤廃求める 日中首脳

ワールド

台湾の頼総統、中国軍事演習終了後にあらためて相互理

ビジネス

ロシア事業手掛ける欧州の銀行は多くのリスクに直面=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 3

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 4

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    胸も脚も、こんなに出して大丈夫? サウジアラビアの…

  • 8

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中