最新記事

ネット配信

グーグル、YouTube有料化の真意

1億ドルを投じてYouTubeの有料動画の製作に乗り出したグーグルは、映像業界を牛耳る「恐竜」たちを一掃しようとしている

2011年12月19日(月)14時51分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

台風の目 YouTubeが有料動画の配信を始めれば、映像業界のあり方も様変わりする Eric Gaillard-Reuters

 テレビドラマの作り手になりたい人にとって、アンソニー・ズイカーは憧れの的だろう。彼は10年以上前にドラマ『CSI:科学捜査班』の企画原案を手掛け、番組を大ヒットさせた。その才能と影響力をもってすれば、ドラマ界で思う存分に腕を振るえるはず......。

 なのに今、ズイカーは活動の場をグーグル傘下の動画公開サイトYouTubeに広げようとしている。YouTubeの有料動画の製作に参加するのだ。

 グーグルはこの事業に1億ドルを投じる計画で、YouTubeはズイカーのほかにも、歌手のマドンナや俳優のアシュトン・カッチャーらと契約済みだ。

 グーグルの構想が実を結べば、既存のテレビ産業は大打撃を受けかねない。何しろグーグルにはネット接続テレビのプラットフォーム「グーグルTV」や、携帯端末用OSの「アンドロイド」という武器がある。

 10年後には世界中で数十億単位の人々がスマートフォンやタブレット型端末を利用しているだろう。彼らはグーグル+のようなSNSで密接に結び付いているはずだ。

コンテンツ黄金時代をもたらす新メディア

 YouTubeの有料動画はテレビの新形態というより、前代未聞のメディアと言っていい。番組のスタイルも利益の上げ方も一変する。

 グーグルの構想は製作とビジネスの両面で魅力的だとズイカーは語る。「アーティストは製作上の干渉を受けずに、思うとおりの作品を公開できる。(ビジネス面については)有料動画が普及すれば、多くのコンテンツを抱えた人は5〜10年後には映画会社のオーナーのような存在になれる」

 ドラマなどの映像製作者はインターネットのおかげで、資金提供者の指図を受けずに済むようになるかもしれない。「新しいメディアというより斬新な社会的運動というべきだろう。テクノロジーの進歩によって、コンテンツの黄金時代が到来する」と、ズイカーは言う。

 ズイカーは今回のプロジェクトに関して、ネット向けの短編ホラーの製作を手掛けるトニー・バレンズエラや、YouTube向けの短編動画製作会社コレクティブ・デジタル・スタジオと組むという。「チャンネル」名はブラックボックスTVだ。10〜15分の短編ホラー12作を提供する計画で、そのうち2作はズイカー自ら脚本と演出を担当。そのほかは協力者らに託し、好評作は続編を作る予定もある。

肥大化したテレビ業界を崩す

 グーグルは有料動画プロジェクトを自ら展開することで、大手テレビ局によるコンテンツ支配に風穴を開けようとしているようだ。ネットで有料動画を配信したくても、これまでは大手テレビ会社が番組を独占し、提供したがらないことが障害になってきた。それなら、自分たちで番組を作ればいいというわけだ。

 いずれは、映像作品の楽しみ方が大きく変わるかもしれない。グーグルにとって1億ドルの投資など手始めにすぎないだろう(グーグルは350億ドルを蓄えている)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

TSMC、熊本県第2工場計画先延ばしへ 米関税対応

ワールド

印当局、米ジェーン・ストリートの市場参加禁止 相場

ワールド

ロシアがウクライナで化学兵器使用を拡大、独情報機関

ビジネス

ドイツ鉱工業受注、5月は前月比-1.4% 反動で予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中