最新記事

ヨーロッパ経済

金高騰で金歯も売るスペイン人の窮状

債務危機を生き残れるのは現金を持つ者のみと、金の買取業者になけなしの貴金属を持ち込むスペイン人

2011年5月11日(水)15時49分
ガイ・ヘッジコー

千客万来 マドリードの街頭で客の呼び込みをする金売買業者 Susana Vera-Reuters

 金相場が高騰するなか、スペインでは全土で金の売買を仲介する小口業者が続々と誕生している。景気低迷と債務危機に沈む国で、人々はいらなくなったアクセサリーを売りに出して生活の足しにしているのだ。

「ゴールドのネックレスやブレスレット、指輪など何でも持ち込んでくる」と、首都マドリードの中心街で金を売買するヘスス・アギナガは言う。「金の入れ歯」まで売りにくる人もいるらしい。

 公式な統計はないが、地元紙によると昨年はアンダルシア地方の南部だけで約500軒の金の仲介業者が営業していた。前年の3倍を超える数字だ。こうした業者はスペイン全国の都市や町に存在する。大抵の場合、その店構えは小さく、外壁はけばけばしい黄色に塗られている。

 この4月、金は1オンス(約31ラム)あたり1500ドルを突破し最高値を更新した。世界的な経済不安に加えて、中東の政変や日本の大震災が影響した。

 他方、経済危機に直面しているスペイン人はすぐに使える現金を求め、この現金需要の高まりと金の高騰が相まって金取引業者は活況を呈している。

高値は長く続かない

 スペインで10年続いた不動産バブルは08年の世界金融危機ではじけ、さらに昨年のユーロ圏の債務危機が追い打ちをかけた。スペインは、公的債務問題を自国だけで解決できるかどうか危ぶまれている国の1つだ。

 左派政権が断行した「痛みを伴う」財政改革によって、これまでのところ一応の安定を見せている。少なくともギリシャ、アイルランド、ポルトガルが行ったような、EU(欧州連合)に緊急融資を要請する事態には陥っていない。

 とはいえスペイン経済の成長は鈍く、21%の失業率はEU内で最悪だ。政府の緊縮政策には、失業手当の削減も含まれている。そんななか、金の売買業者は1グラムあたり26ユーロで買い取ると宣伝し、多くの国民が金製品を持ち込んでいる。

「みんなが金を売りにくる。商売はさておき、俺たちは人々に現金を渡すことで人助けもしているんだ」と、マドリードの業者フアン・バスケスは言う。バスケスは、最近メディアで「業者は金相場に疎い客から市場価格以下で買い叩いている」と非難の論調が高まっていることについて弁明した。

 もっとも、スペイン版「ゴールドラッシュ」の輝きもそろそろ消え失せそうな予感だ。複数の専門家が、金の記録的な高値はそう長くは続かないと予測する。それ以前に、スペイン全土で金の売買業者が増殖すれば、競争が激化して利幅が小さくなるのは必至だ。もう店をたたんでしまった業者も少なくない。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

焦点:FRB大幅利下げは吉か凶か、投資家は相場波乱

ビジネス

東京メトロ、10月23日上場 国と都が3195億円

ビジネス

午後3時のドルは142円前半へ小幅安、日銀会合後に

ワールド

ブラジル当局、干ばつでサマータイムの復活承認 大統
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に高まる【新たな治療法】の期待
  • 2
    世界で最も華麗で高額な新高層ビルに差す影
  • 3
    岸田政権「円高容認」の過ち...日本経済の成長率を高められる次期首相は高市氏だ
  • 4
    「ポケットの中の爆弾」が一斉に大量爆発、イスラエ…
  • 5
    米大統領選を左右するかもしれない「ハリスの大笑い」
  • 6
    浮橋に集ったロシア兵「多数を一蹴」の瞬間...HIMARS…
  • 7
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 8
    地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない…
  • 9
    「気持ち悪い」「正直言って変...」サブリナ・カーペ…
  • 10
    他人に流されない、言語力、感情の整理...「コミュニ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 3
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 4
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 5
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に…
  • 6
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 7
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁…
  • 8
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 9
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰…
  • 10
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 5
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 6
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 7
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 8
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 9
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 10
    ロシア国内クルスク州でウクライナ軍がHIMARS爆撃...…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中