最新記事

司法

IMFセックス疑惑、米横暴に仏激怒

2011年5月18日(水)18時13分
モート・ローゼンブルム

 フランスに長く住んだことのあるアメリカ人なら、両国の警察の違いをよく知っている。フランスでデモを行うとき、武装した共和国機動隊には注意するべきだというのは常識だ。機嫌を損ねたドーベルマン犬のような彼らは、時にデモ参加者を集団で拘束し、トラックに押し込む。

 それでも警察は厳格な司法手続きに従い、拘束した容疑者が報道陣や人々の目にさらされないように保護する。有罪が確定するまでは、手錠をかけた写真を掲載することも違法とされている。

裁判前からこき下ろす米メディア 

 拙速にストロスカーンの有罪判決を下そうとしているかに見えるアメリカのメディアを目にするにつけ、フランス人はアメリカの司法制度に対して怒りを募らせている。事件が発覚した当初、ニューヨーク・デーリー・ニューズ紙はストロスカーンの写真を1面に掲げて大見出しで「Le Perv(ザ・変態)」と報じた。

 米NBCの記者ジェフ・ロッセンはもう少し慎重だった。ストロスカーンの容疑に「......の疑い」という言葉を毎回使っていた。NBCはニューズウィーク誌パリ市局長のクリストファー・ディッキーによる解説も報道した。

 だがロッセンは、物証の中にはDNAサンプルも含まれていると報道した。DNA検査でまだ何一つ判明していないのにもかかわらず、だ。さらに彼は、ストロスカーンが携帯電話の1つをホテルに忘れていったことも大きな証拠だと言った。

 他社の記者たちと同様にロッセンも、ストロスカーンが警察の手を逃れるためにホテルから大慌てで逃走し、ケネディ空港でパリ行きの航空券を買ったという見方を報道した。保釈申請を却下したところを見ると、判事のメリッサ・ジャクソンも同じ考えのようだ。

 ニューズウィークのディッキーによれば実際のところ、ストロスカーンはベルリンで行われるアンゲラ・メルケル独首相との会談とその後ブリュッセルで予定されているEU会議のために、あらかじめフライトを予約してあったという。

人間以下の扱いは許せない

 ストロスカーンの滞在した部屋が1泊3000ドルのスイートだったとか、飛行機がファーストクラスだったなどと、興味本位の細かな話が強調されて報道されている。何兆ドルものカネを動かすIMFの専務理事という立場にいる人間にとって、こうした待遇が行き過ぎだったのかどうか――確かに興味をそそる問題かもしれない。だがそれは本筋とは無関係だ。

 IMFの報道官は、ストロスカーンはホテルの部屋代のうち525ドルを自腹で払い、飛行機は本人の希望ではなくアップグレードされたものだったと話した。

 多くのフランス人にとって、アメリカの記者はストロスカーンの評判を誇張し過ぎているように見える。確かに彼は女好きかもしれないが、ディッキーがNBCで指摘したように、彼が有名だったのは「女たらし」としての顔だ。強姦犯などではない。

 若手記者の倫理教育を担当しているあるベテランのフランス人ジャーナリストは、裁判も始まらないうちからストロスカーンが中傷されまくる様子を見て衝撃を受けたと語っている。

「もしも有罪が確定したなら、彼はアメリカの司法のどんな決定にも従うべきだろう」とこのジャーナリストは言う。「だが彼が人間以下の扱いを受けることを、私たちは到底許すことはできない」

GlobalPost.com 特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、政権からの利下げ圧力を否定

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 8
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中