最新記事

アップル

iPodの進化に脱帽!

怒涛のような新製品発表イベントが浮き彫りにする一人勝ちの秘訣

2010年9月2日(木)18時15分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

真骨頂 タッチスクリーンを搭載した超小型のiPodナノを発表するジョブズ(9月1日) Robert Galbraith-Reuters

 どんな業種でもかまわないが、この地球上にアップルのように絶え間なく革新を続ける企業があるだろうか。ない、と私は思う。

 アップルは9月1日、携帯型音楽プレイヤーiPodの新ラインナップと、全面的にモデルチェンジしたアップルTV、ソーシャルネットワーキングサービス機能を付加した新たなiTunes、そしてiPhoneとiPad、iPodタッチに搭載するモバイル端末向け基本ソフト(OS)の新バージョンをまとめて発表した。

 さらにCEO(最高経営責任者)のスティーブ・ジョブズは、11月に配信を開始するモバイル端末向けOSの最新バージョンをチラ見せするというサプライズまで演出。この最新OSを搭載した携帯端末を使えば、映画や音楽、写真を他の端末へワイヤレスでストリーミングできる。

 iPadの発売から4カ月、iPhone4の発売から2カ月しか経っていないことを考えれば、これほど多くの新製品を一気に発表したのは見事だ。だが、アップルの基準で見れば、これくらいは大したことではない。

 今回のイベントには、アップルがこの10年間、成功を続けてこられた理由が詰まっている。はっきり言って、これほど多くの新製品をこれほど頻繁に生み出してきた企業は他にない。自社製品を(ヒット商品でさえ)これほど継続的に改良し続ける企業も、解決策が見つかるまで執拗に挑戦を続ける企業も、他には見当たらない。アップルは目下、シリコンバレー史上最強の発明集団なのだ。

不人気のアップルTVが生まれ変わった

 私はよく、アップルのような企業が数多く存在する世界について想像を巡らせる。もし自動車メーカーのビッグ3が、最先端技術を盛り込みつつ、アップル製のユーザーインターフェイスを備えたシンプルで使いやすい車を開発していたら? 新たなテクノロジーや発想を常に追い求め、それを製品に取り込む努力を続けていたら?

 例えば、アップルTVは素晴らしい製品だが(私は2台所有している)、売れ行きは芳しくなかった。ジョブズも以前に、アップルTVは「道楽」だと語ったことがある。
 
 今回、アップルは失敗を認め、徹底的なモデルチェンジを計った。映画や音楽を保存する大型ハードディスクを搭載していた旧モデル(299ドル)と違って、新型モデルはずっとコンパクト。オンラインDVDレンタル大手「ネットフリックス」の映画などのコンテンツをストリーミングで受信し、接続したテレビ画面に映し出す。しかも、価格はわずか99ドルだ。

 今度は売れるだろうか? それはわからないが、人々が自宅のハードディスクにコンテンツを溜め込むよりもネット上のどこかに保存しておく形態を好むことを、ジョブズは理解している。大幅な値下げも、より広い層にアピールする原動力になるかもしれない。

 今回のイベントでアップルは、iPodシャッフルのデザインに関するミスも認め、問題点を改善した新型モデルを発表した。旧モデルでは、それ以前のモデルにあった「再生」などの操作ボタンが省略され、すべての操作をイヤホン側で行う必要があったため、ユーザーの評判が悪かった。そこでアップルはユーザーの不満に耳を傾け、本体の操作ボタンを復活させた。

ミスを認める能力がさらなる革新を生む

 まるでアップル教の信者のように聞こえるかもしれないが、私はミスを認めて改良するこの能力こそ、アップル成功のカギの一つだと思う。批判派からは、iPhone4のアンテナの不具合騒動ではミスを認めずに時間稼ぎをし、どの携帯電話でも持ち方によっては受信障害が発生すると言い張ったという反論が出るだろう。だが、次世代iPhoneが完成した暁には、アップルはiPhone4のアンテナが理想的でなかったと暗に認め、改良版を発表すると思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中