最新記事

銀行

オバマのゴールドマン制圧作戦

新しい金融規制改革案は政府の救済策で荒稼ぎした金融機関を標的にしている

2010年2月24日(水)17時10分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

 ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの社員は、納税者の支援のおかげでボーナスをもらえた喜びをじっくり味わってほしい。バラク・オバマ米大統領が1月21日に発表した新たな金融規制改革案が実施されたら、これが最後の大盤振る舞いになるかもしれないからだ。

規制案に盛り込まれた目標は2つある。1つは預金量のシェアだけでなく負債の市場シェアにも制限をかけることで、銀行の規模が大きくなり過ぎないよう歯止めをかけること。巨大化を防げば、破綻した場合に救済せざるを得なくなる事態がなくなる。

 もう1つは銀行の事業内容の制限。預金者など顧客と無関係な業務が禁じられる。ヘッジファンドやプライベート・エクイティ(未公開株)ファンドの所有や投資が禁止されるほか、リスクの高い自己勘定取引に制限が加えられる。国の支援を受けた銀行が他人の金で大きなリスクを取って利益の多くを懐に入れ、投資が失敗した場合に最小限の責任しか取らないなどということは許されなくなる。

昔は、ヘッジファンドと投資銀行は通常、パートナーや従業員、他の企業から資金を集め、資本市場で金を借りた。FRB(米連邦準備理事会)から融資を受けたり、連邦預金保険公社(FDIC)の保証の対象となる預金に手を付けることはできなかった。

 商業銀行と投資銀行の業務を厳格に分離した33年のグラス・スティーガル法による歯止めが99年になくなった後、シティグループやJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカなどは両者の業務を一つ屋根の下に統合した。

 一方、ベアー・スターンズ、ゴールドマン・サックス、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズ、モルガン・スタンレーなどの大手投資銀行はこの流れに加わらなかった。自己勘定取引を行い、ヘッジファンドや未公開株ファンドを手掛けていた。

銀行に二者択一を迫る

 08年に本格化した金融危機をきっかけに、投資銀行の立て直し策が次々と実施された。投資銀行は商業銀行持ち株会社にしか許されていなかったFRBからの割安な融資を受けられるようになった。

 リーマン・ブラザーズの破綻後、ゴールドマンとモルガンは急きょ、銀行持ち株会社に転身。FRBとFDICによる恩恵を存分に活用できる立場になった。FDICは預金の保護限度額を上げ、さらに金融機関の債務保証プログラムを打ち出した。

09年、投資銀行は極めて低金利の助成金を貸し付けに利用したが、同時に自らの投資業務などにも使った。なかにはかなりうまくやったケースもある。ゴールドマンは09年、134億ドルも稼いだ。

 オバマはグラス・スティーガル法の復活を狙っているわけではない。新規制の下でも銀行は個人対象の業務を行う支店網を持つと同時に、M&A(合併・買収)の仲介や証券の引き受けといった投資銀行業務を取り扱うことができる。だがFDICの保護を受けた預金をハイリスクの取引に利用することはできなくなる。

「この規制が実施されれば、金融機関は自己勘定取引をするか、銀行を運営するか、どちらかを選ばなければならなくなる」とオバマ政権の高官は語った。

 規制のこの部分はゴールドマンが標的になっているようだ。オバマ政権高官によれば「特別な保護を受けた者が自己勘定取引でかなりの利益を出していることを知り、大統領と経済チームは綿密な調査が必要だと考えた」という。

この規制は低金利の融資を最大限に活用しているゴールドマンとモルガンに最も大きな影響を及ぼすだろう。投資銀行業務の売上高が直近の四半期決算で全体の5分の1未満だったJPモルガンなどにとってはそれほど問題ではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 6
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 7
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中