最新記事

独自携帯の発売は業界への挑戦状

2010年1月15日(金)14時55分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

 米グーグルが携帯電話用のOS(基本ソフト)「アンドロイド」を発表したのは07年のこと。提携した多くのメーカーが、これでアップルのiPhoneに対抗できる端末を開発できると期待した。

 昨年後半、グーグルが自社で携帯電話を製造するのではないかという噂が流れ始めた。だがグーグルの携帯電話部門責任者アンディー・ルービンは10月、そんなことは絶対にしないと断言した。アンドロイドを搭載するメーカー各社と競合することになるからだ。

 ところが1月5日、グーグルはまさに提携各社と競合する事業を発表した。独自に開発した高機能携帯「ネクサス・ワン」の発売だ。製造は台湾のメーカーHTCに委託し、グーグルが同日開設したオンラインストアで販売を始めた。ネクサス・ワンの商標は、HTCではなくグーグルが所有する。

 この新型携帯は、従来のアンドロイドを大幅に改良した新バージョンのOSを搭載。画面はiPhoneよりも優れている。グーグルはスマートフォンを超える「スーパーフォン」と呼ぶ。従来のOSを搭載する各社の携帯は事実上「旧式」になってしまった。

 ネクサス・ワンは特定の通信会社と契約せず単体でも購入でき、価格は530ドル。これならユーザーは通信会社を自由に選べるが、ドイツのTモバイルとの通信契約付きなら180ドルで買える。今春には、英ボーダフォンなどでも契約できるようになる予定だ。

 5日の記者会見で、携帯電話を作らないと断言した先の発言について問われたルービンは、こう答えた。「私は非常に正確に話す。グーグルがハードウエアを作ることはないと言ったのだ」。確かにグーグルは「製造」はしない。ルービンは嘘をついていたのではなく、正確に話していただけらしい。

 ともあれ、グーグルは携帯電話端末の市場に参入した。提携するメーカー各社だけでなく、通信各社とも張り合うことになる。端末を販売して長期契約で利用者を縛る通信会社のビジネスモデルを破壊しようとしているのだ。消費者は喜ぶだろうが、通信会社にとってはたまったものではない。

 グーグルはかつてのマイクロソフトのようになった。他社と組んでその手法を学び、やがてそのビジネスを奪い始める。もちろん笑顔を絶やさず、「私たちは世界を変えたいただのエンジニア」と猫をかぶる。それでもグーグルを止めることは誰にもできない。

[2010年1月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:好調スタートの米年末商戦、水面下で消費揺

ワールド

トルコ、ロ・ウにエネインフラの安全確保要請 黒海で

ワールド

マクロン氏、中国主席と会談 地政学・貿易・環境で協

ワールド

トルコ、ロシア産ガス契約を1年延長 対米投資も検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中