最新記事

アメリカ経済

不況の今こそ起業せよ!

運とアイデアと決死の努力があれば「第2のビル・ゲイツ」になるのも夢じゃない

2009年8月18日(火)17時16分
ナンシー・クック

先見の明 ビル・ゲイツは「一家に一台コンピュータを」という夢を実現して巨額の富を手に入れた(写真は1993年) Sue Ogrocki-Reuters

 アメリカの失業率は10%近くに達し、金融市場は冷え込む一方。こんなときこそ、ビジネスを立ち上げる絶好のチャンスだ。

 信じられないかもしれないが、私は本気だ。

 考えてみてほしい。多くの労働者が職を失っている今なら、有能な人材を多数、安いコストで雇える。企業が労働時間や給与を削減し、雇用の安定性が揺らいでいるからこそ、人々は思い切って新規ビジネスで働こうと考えやすい。

 融資を受けたりベンチャーキャピタルの支援を受けるのが以前より難しいのは事実だが、越えられないハードルではない。

 手もちの資金で起業するのが最善の方法であることが多いと、ノースウェスタン大学J・L・ケロッグ経営学大学院のジェームズ・シャイン教授も言う。「不況で資金集めが非常に難しいため、計画を綿密に練り上げる必要がある」

マイクロソフトは石油危機の最中に誕生

 実際、景気の低迷期に創業され、成功を収めた企業はたくさんある。いい例が、マイクロソフトやサウスウエスト航空だ。

 ビジネス史の専門家に言わせれば、あらゆる成功例に共通する起業マニュアルなど存在しない。代わりに必要なのは、運とアイデアと死ぬ気で働く意欲だ。

 マイクロソフトとCNNの場合は、ビル・ゲイツとテッド・ターナーというカリスマ指導者の存在も大きかった。「本当にいい企業には大抵、自社製品を心から信じ、仕事を成し遂げるために人生を賭ける覚悟がある人たちがいる」と、シャインは言う。

 例えばマイクロソフトがニューメキシコ州で産声を上げたのは1975年、不況と石油危機の最中だった。ビル・ゲイツと友人のポール・アレンは個人用コンピュータ向けのコンピュータ言語を開発したが、他のプログラマーたちにあっという間にコピーされた。そこでゲイツはプログラマーに向けた公開書簡で無断コピーの禁止を呼びかけ、著作権料の必要性を主張した。

 81年までにゲイツは事業を拡大し、IBMと契約。マイクロソフトのソフトウエアと基本ソフト(OS)がIBMの新型パソコンに搭載されるようになった。

「不況下で創業されたにも関わらず、マイクロソフトは成長著しい製品にサービスを提供していた」と、ダートマス大学エイモス・タック・ビジネススクールのリチャード・ダベニ教授は言う。

 もっとも、マイクロソフトが成功したのは、ちょうどいい時期にちょうどいい場所にいたためだけではない。IBMとの契約において、マイクロソフトは著作権をIBM側に渡さなかった。いずれ他社がIBMのパソコンと似た製品を発売するようになったときに他社にもソフトのライセンスを供与できれば、さらに儲かると踏んでいたからだ。

次の有望株はエコ関連ビジネスだ

 一方、サウスウエスト航空はすき間市場を見つけることで成功した。71年にダラスとヒューストン、サンアントニオという限られた路線で就航した同社は、座席指定を止め、機内での飲食や娯楽の提供を廃止。また、既存の航空会社との激しい競争が予想されるハブ空港には運行しないという戦略を取った。

「競争を避けると同時に、不況の時代に低価格のサービスを提供する作戦だ」と、ダベニは言う。「低価格と経営モデルによって、逆境になりかねない状況を生き延びることができた」

 運賃をライバル社の50~70%に抑えることで、サウスウエスト航空は空の旅を身近なものに変えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米国に抗議 台湾への軍用品売却で

ワールド

バングラデシュ前首相に死刑判決、昨年のデモ鎮圧巡り

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機100機購入へ 意向書署名とゼ

ビジネス

オランダ中銀総裁、リスクは均衡 ECB金融政策は適
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中