最新記事

世界経済

自動車より怖い航空業界の危機

経済波及効果はより大きいのに経営難でも政府は知らん顔

2009年7月8日(水)14時48分
ケイティ・ベーカー

 各国政府は世界経済危機の直撃を受けた自動車メーカーのてこ入れを急いでいる。だが、同じように破綻寸前の航空会社には知らん顔だ。しかし、英コンサルティング会社オックスフォード・エコノミクスの調査報告によると、航空業界の経営状態は自動車業界以上に経済に与える影響は大きい。

 航空業界は現在、世界中で550万人余りを雇用し、毎年4250億ドルを稼ぎ出す。観光業や航空券取扱業などの関連産業も含めると、雇用者数は3300万人となり、全世界のGDPに1兆5000億ドルも貢献している。これはG20(20カ国・地域)の多くの国を上回る数字で、自動車業界の売上高より約3割多い。特にアジアで需要が急増しており、2026年には航空業界は5000万人を超える雇用を支え、全世界のGDPのうち3兆6000億ドルを担うと期待されている。

GMより先に救うべきだった?

 その航空会社が傾き始めれば、世界経済は大打撃を受ける。成長率が予測をわずか1%下回っただけでアジアで約200万人、ヨーロッパとアメリカでそれぞれ150万人が失業し、全世界のGDPは最大4400億ドル減少する。特に観光業界とグローバル企業への痛手が大きい。グローバル企業が物や人を迅速かつ効率的に長距離輸送できるのは、航空会社のおかげだ(グローバル企業の80%が航空輸送は自社の効率性にとって「重要」と回答、うち半数が「不可欠」と回答した)。

 航空会社には大量の二酸化炭素(CO2)を排出しているとの批判もある。だがオックスフォード・エコノミクスによると、CO2排出量全体の2%を占める航空機の航行を制限しても、今後20年間で代替燃料のCO2排出量が航空燃料と同じかそれ以上になる可能性がある。

 ゼネラル・モーターズ(GM)救済より、航空会社へのてこ入れのほうが先だったかもしれない。

[2009年7月15日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トヨタ、新型RAV4を今年度中に発売 独自ソフト基

ワールド

パキスタンと中国、貿易・投資拡大で合意 緊密な意思

ワールド

トランプ氏、「ゴールデン・ドーム」の詳細発表 費用

ワールド

訪米中のベトナム商工相、ロッキードやスペースXと協
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 3
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到した理由とは?
  • 4
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 5
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 6
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜…
  • 7
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 8
    【裏切りの結婚式前夜】ハワイにひとりで飛んだ花嫁.…
  • 9
    トランプは日本を簡単な交渉相手だと思っているが...…
  • 10
    小売最大手ウォルマートの「関税値上げ」表明にトラ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 9
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 10
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中