最新記事

米経済

エンロン帝国の堕ちたエリート

傲慢な企業文化と経営幹部の不正が招いたアメリカ史上最大級の企業破綻は、多くの従業員の職と年金を奪い、企業への信頼も失墜させた

2009年6月2日(火)16時46分
エバン・トーマス(ワシントン)

被害者 エンロンの破産申請後、コスト削減策の一環として解雇された従業員たち(2001年12月、テキサス州ヒューストンの本社前で) Richard Carson-Reuters

 百歩譲っても、「にわかには信じがたい」と言わざるをえまい。2月7日、議会の公聴会に出席したジェフリー・スキリング元エンロンCEO(最高経営責任者)は、自社の会計処理の不正を知って驚いた、と証言したのである。

 実の母親にも、こんな言い分は信じがたい。スキリングの母ベティ(77)は公聴会前に本誌の取材に応じ、「CEOとして役員会に名を連ねている以上、会社で何が起きているかを知らなかったではすまされない」と語っている。「責任をもって説明してほしい」

 しかし、責任を取るよりも責任を転嫁したくなるのが世の常。どうやらスキリングはケネス・レイ前会長と手を結び、前CFO(最高財務責任者)のアンドルー・ファスタウに罪をなすりつける作戦のようだ。ファスタウは同社の経営破綻を招いた簿外取引の中心人物で、一連の取引で個人的な利益を得ていたとされる。

 直接の接触は避けているものの、スキリングとレイは共通の友人を介して連絡を取り合っている(その「友人」が本誌に語ったところでは、互いの近況を伝え合う程度だとか)。今のところファスタウは沈黙を守っているが、刑事事件として立件されれば司法取引に応じ、スキリングらに不利な証言をする可能性は十分にある。

 どんな法廷ドラマが展開されるかは見てのお楽しみだが、人間ドラマのほうもすごい。時代の先端を突っ走り、自分たちは古いルールの上を行くと豪語してきた男たちが、今はルールの守護者たる議会に引き出されている。「エンロン3人組」は今や、20世紀末の傲慢な企業文化の象徴だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=

ビジネス

NY外為市場=ドルまちまち、対円では24年12月以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中