最新記事

米政治

公的年金は早く破綻したほうがよい

2009年5月25日(月)18時30分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

 どうすれば、医療の質を落とさずに医療費を抑制できるのかというのも大きな問題だ。一部の試算によれば、アメリカで支出されている医療費の3割は本来不要、もしくは効果のない医療に支払われている可能性があるという。

 残念なことに、政府の報告書によればメディケアの破綻は17年まで、公的年金の破綻は37年まで起きない。破綻時期をそれぞれ19年と41年としていた昨年の予測よりXデーは近づいているが、遠い先の話であることに変わりはない。

 その日まで、状況はじわじわと悪化していく。問題を抜本的に解決するためには、社会保障費の増大に歯止めをかけない限り、財政赤字の拡大を容認するか、増税を行うか、社会保障以外の歳出を減らす以外にない。しかし大統領と議会は懸念を表明するだけで、上っ面の対策しか打ち出さない。

オバマも口先だけの大統領?

「21世紀の公的年金を守らなければならない」と、ビル・クリントン元大統領は言った。「このままだと制度は破綻する」と、ジョージ・W・ブッシュ前大統領も言った。ただしそうした言葉とは裏腹に、抜本的な改革はなされていない。バラク・オバマ大統領もこの2人の前任者と同じ道を歩もうとしているように見える。

「これまで私たちは(社会保障の財源問題という)空き缶を道路の先へ先へと蹴り続けてきた」と、オバマはワシントン・ポスト紙に語った。「もう道路は行き止まりだ。これ以上、空き缶を蹴飛し続けることは許されない」

 上手な比喩を思いつくだけでは意味がない。就任半年足らずで完璧な青写真を示すことまでは期待していない。しかしオバマは、支給年齢の段階的引き上げ、富裕層への給付水準の段階的引き下げ、メディケアの全面的見直しなど、避けて通れない改革の基本的な方向性すらいまだに示していない。

 自動車メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)やクライスラーと同じように、アメリカは「差し当たり継続できるから」というだけの理由で自己破壊的な悪癖を続けてきた。だが、改革を先延ばしすれば、それだけ改革の痛みは増す。高齢者や納税者の痛みは、時間が経つほど大きくなる。

 アメリカの公的年金制度が最後に大きな改革を経験したのは1983年。基金が底をつき始めて、議会が対策を講じないわけにいかなくなったときのことだ。現在のアメリカにも、そうした「危機」が必要なのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中