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公的年金は早く破綻したほうがよい

アメリカの公的年金と高齢者医療保険は確実に破綻に向かっている。オバマ大統領にこれ以上の問題の先送りを許さないためには、もはや危機が現実になるしかない?

2009年5月25日(月)18時30分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

不安な老後 社会保障の基金が底をつけば、年金の給付額が減り、医療費の患者負担割合が引き上げられることに……(高齢者が多く住むフロリダ州の町) Gary I Rothstein-Reuters

 5月12日に米政府が発表した公的年金とメディケア(高齢者医療保険制度)に関する報告書について報じるメディアの論調は、一様に暗かった。アメリカの社会保障制度の柱をなすこの2つの制度が早晩破綻するというのだから、無理もない。

 しかし実は、これは喜ぶべきニュースだ。というより、早晩などと言わずに、来年にでも両制度が破綻の危機に瀕したほうがいい。

 大統領と議会は本当に待ったなしの状況に追い込まれない限り、社会の高齢化に対応するための痛みを伴う改革に踏み切ろうとしないだろう。政治家に重い腰を上げさせるには、公的年金とメディケアの破綻以上に強力なきっかけはない。だとすれば、一刻も早く両制度の基金が枯渇し、約束どおりの給付ができなくなるのが好ましい。

75年間で45.8兆ドルが不足

 公的年金とメディケアがいずれ破綻することは避けられない。12日の政府の報告書によれば、向こう75年間の両制度の出費は推計で103.2兆ドル。一方、社会保障税などによる収入は57.4兆ドルにすぎない。要するに、45.8兆ドルが不足する計算だ。

 では、公的年金とメディケアの基金が底をついたらどうなるのか。年金の給付額が減り、医療費の患者負担の割合が引き上げられる。高齢者は悲鳴を上げ、閉鎖に追い込まれる病院も出てくるかもしれない。

 こういう状況をよしとする大統領や議員はいない。問題は、公的年金とメディケアの財政を健全化しようと思えば、いくつかの根本的な問いに正面から向き合わなくてはならないことだ。

 平均寿命が伸びた今、国民が仕事を退き、社会保障を受給し始める年齢を引き上げる必要はないのか。1940年、アメリカ人の平均寿命は男性が61歳、女性が66歳だったが、08年には男性が75歳、女性が80歳に上昇している。

 社会保障は、国防や教育、科学振興、住宅や輸送網の整備、国民所得の向上などの政策に対して予算上どこまで優先されるべきなのか。90年にメディケアと公的年金が連邦政府の支出に占める割合は28%だったが、19年には40%近くに上昇すると、オバマ政権は予測している。社会保障とそのほかの政策のバランスをどう取るかという問題はますます重要になる。

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