最新記事

数百人の命を救うドローン

ドローンの世紀

無差別攻撃から災害救助まで急速に進化する無人機は善か悪か

2015.04.23

ニューストピックス

数百人の命を救うドローン

密航船の遭難が相次ぐ地中海にドローンを飛ばせたら、1700人の犠牲は防げたかもしれない

2015年4月23日(木)19時39分
コナー・ギャフィー

表と裏 ドローンは武器にもなり、人命救出の道具にもなる(リビア沖で転覆した密航船から救出された人々。800人以上が死亡したとみられている) DARRIN ZAMMIT LUPI-REUTERS

 急速な普及に伴い、テロ目的の利用が懸念されているドローン(無人機)。しかし、自然災害や遭難事故では行方不明者の捜索などに大活躍しそうだ。

 アメリカ赤十字の委嘱を受け、ドローン活用支援会社メジャーが実施した調査で、崩壊した建物内に閉じ込められた人の捜索にドローンが役立つことが実証された。早期の発見は早期の救出につながり、多くの人命を救えると、調査チームは結論付けている。

 ドローンは海難事故でも威力を発揮すると、メジャーのブランドン・デクレットCEOはみる。このところ地中海ではアフリカからヨーロッパに向かう移民や難民を乗せた船の遭難が相次ぎ、今年に入ってすでに1700人以上の死者が出たとみられている。うちおよそ800人は、先週リビア沖で起きた密航船の転覆事故の犠牲者だ。

 世界的な人の移動の問題を専門に扱う国際機関、国際移住機関(IOM)は、地中海での移民船の事故による死者は年末までに3万人を超える可能性があると警告している。

「地中海にドローンを飛ばし、パトロールを行えば、こうした移民船を早期に発見でき、多くの人命を救える」と、デクレットは言う。「ドローンは万能ではないが、低コスト・低リスクで海洋上の広い範囲を捜索し、情報を収集するにはこれほど優れた機器はない」

 メジャーの調査では、ハリケーンや津波など自然災害でのドローンの活用法もテストされた。調査チームは、テキサスA&M大学構内にある広大な研究・訓練用施設「ディザスター・シティー(被災都市)」で赤外線カメラを搭載したドローンを飛ばし、性能をテストした。ドローンは瓦礫の下に閉じ込められた人を見つけ、撮影した画像を救助チームに送信。救助に要する時間の大幅な短縮に役立つことが確認された。

 ドローンを使った撮影で、建物の構造上の損傷も把握できる。こうした画像は被災者の保険請求や地域の再建計画の立案に役立ちそうだ。

 この調査で、人命救助にドローンを活用するためには、災害発生後24時間以内に飛ばす必要があることも分かった。

 ドローンの商業利用にはさまざまな規制がかけられている。アメリカでは、ドローンを飛ばすには、連邦航空局(FAA)の許可が必要で、許可が下りるには最高60日かかる。

 ヨーロッパでは、飛行目的などに応じて欧州航空安全庁(EASA)、国際民間航空機関(ICAO)、さらには各国の民間航空規制当局の許可が必要な場合があり、一律のルールはない。

 メジャーの調査チームは、緊急時に人道支援や救助活動を行う非営利組織(NPO)に即座に許可が下りるよう特例的な措置が必要だと提言している。

 近年では、ドローンに限らず、災害時に遠隔操作のレスキューロボットの活躍が目立つようになった。9・11同時多発テロや11年に東南アジアで6000人以上の死者を出した台風「ハイヤン」など、すでに35件の災害や事故対応に航空、海洋、地上用ロボットが投入されている。

 10年に起きたハイチ地震では、救援船が接岸できるよう、海底の瓦礫の撤去に小型の無人水中探査機が利用された。

 海上の石油プラットフォームで作業員の転落事故を監視するため、ドローンを活用するアイデアもあり、メジャーはテストを行っている。

 アメリカ赤十字は引き続き人道支援活動におけるドローンの用途を調査し、導入を検討する意向だ。「災害の予防と対応で赤十字の活動を改善するドローンの活用法を探ること」が調査の目的だと、広報担当は語った。「ドローンに限らず、災害対応チームにより正確な情報を提供し、より多くの人を、より迅速に援助できるようにする手段であれば何であれ、さらに詳しく調査する価値がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中