最新記事

救出はペリカンをもっと苦しめるだけ?

BP原油流出

史上最悪の環境・産業災害を招いた
深海油田探査の野望と教訓

2010.07.16

ニューストピックス

救出はペリカンをもっと苦しめるだけ?

BPの原油流出事故で野鳥の救出活動が続けられているが、安楽死させたほうが人道的との見方も

2010年7月16日(金)12時02分
ジェニーン・インターランディ

 数としては、まだ決して多くない。米メキシコ湾の原油流出事故による自然界への影響が懸念されるなか、6月6日時点で油まみれになった野鳥が820羽、海亀は289匹が海から引き上げられた。だが、その大半は既に死んでいた。

 今回の事故はアメリカ史上最悪の規模で、油の除去作業も夏までかかりそうなことを考えると、今後も油まみれの野鳥が次々と発見されるのは確実だ。救助に当たる人々は過去の原油流出事故と同じように、何とかして生存する動物を保護し、洗浄しようと試みる。

 しかし、そんな努力に本当に意義があるのだろうか。科学者のなかには首を傾げる者もいる。動物にとって、捕獲され洗浄されるという体験は、油の中に放り込まれるのと同じくらい大きなトラウマ(心的外傷)を招くものだ。保護された野鳥の多くが、生育地に戻されて間もなく死んでしまうという調査結果もある。

 安楽死させるほうが人道的だと考える専門家もいる。「洗浄して元の環境に戻せば、私たちの気分は和らぐかもしれない」と、カリフォルニア大学デービス校の鳥類学者ダニエル・アンダーソンは言う。「しかし、実際にどのくらい野鳥たちのためになるかは分からない。苦しみを長引かせるだけかもしれない」

救出しても長くは生きられない

 鳥の羽は、きれいな状態の場合は水をはじき体温を調整する役割を果たすが、汚れるとそうはいかなくなる。特に油がつくと羽は重くなり風をとらえにくくなるし、羽の断熱性が低下するため暑さにも弱くなる。さらに、羽から油を取り除こうと舐めたりすれば、致死量の炭化水素を摂取する恐れがある。

 捕獲され洗浄されるという体験は、生易しいものではない。保護された野鳥が自然に放された後、元の生息地に戻って再び油まみれになるケースもある。そんな事態を免れたとしても、寿命は劇的に短くなり、繁殖に成功する確率は下がる。

 02年にスペイン沖で重油タンカー、プレステージ号から重油が流出した事故では数千羽の野鳥が救出されたが、そのうち生息地に戻されたのは600羽だけだった。他の鳥はほとんどが、捕獲後わずか数日で死んでしまった。

 生存率は種によって大きく異なるので一概には言えないが、メキシコ湾には命をつなぎとめるのが極めて難しい部類の種が生息している。例えばカッショクペリカンは、絶滅危惧種のリストから昨年外されたばかり。90年にカリフォルニア沖で起きたアメリカン・トレーダー号による原油流出事故では、救出されたペリカンの半数以上が1年以内に死亡。2年後の生存率は15%に満たなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中