最新記事

【12】AIGを潰したのは、クレジット・デフォルト・スワップ。

ウラ読み世界経済ゼミ

本誌特集「世界経済『超』入門」が
さらによくわかる基礎知識

2010.04.12

ニューストピックス

【12】AIGを潰したのは、クレジット・デフォルト・スワップ。

2010年4月12日(月)12時03分

 08年9月、米投資銀行大手リーマン・ブラザーズ破綻の翌日に米政府の管理下に入った米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)。09年3月までに計4回、約1800億ドルもの公的支援を受けながら、幹部社員に計2億1800万ドルの高額ボーナスを支給してアメリカ国民を激高させた。

 そのAIGを一夜にして窮地に追い込んで有名になったのが、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれるデリバティブ(金融派生商品)。金融機関が貸し倒れ損失を避けるために開発された一種の保険で、金融機関はAIGに保険料を支払う代わり、万一貸し倒れが起きれば元本を支払ってもらう契約だった。

 サブプライム危機で損をした金融機関が支払いを求めて駆け込んできたが、当時、AIGがCDSで支払いを保証していた額は自己資本の5倍以上の4400億ドルにも達していた。もし保証ができないということになれば、世界の金融機関に貸し倒れが広がり、信用不安に火が付きかねない。著名投資家のウォーレン・バフェットがCDSを「金融版の大量破壊兵器」と呼んだのも、こうした危険を見越していたためだ。

 90年代後半にアメリカの投資銀行が商品化したCDSは、金貸し業にそもそもの始まりから付きまとってきた貸し倒れリスクから銀行を解放し、手元の資金をどんどん貸し出しに回せるようにしてくれる画期的な商品と見なされた。JPモルガンの専務取締役としてCDSの誕生に立ち会ったマーク・ブリッケルは、これを原爆級の発明に例えたほどだ。実際、00年に1000億ドルだったその市場規模は、07年末には約62兆ドルに拡大した。

 リスク回避のために作られたCDSが、なぜ大量破壊兵器になってしまったのだろうか。1つは銀行や住宅ローン会社の側が、CDSで保険さえ掛ければ安心とばかりに、返済能力のない人に無謀な貸し出しを増やしたからだ。

 こうした危ない住宅ローンを担保にした住宅ローン担保証券を購入した投資家も、投資対象の中身を吟味する代わりにCDSを買うことでリスクを回避したと錯覚した。CDSを口実に、リスク度外視の投資が雪だるま式に膨らんでいったのだ。

 一方、世界中でCDSを販売したAIGのほうは、契約者が一斉に保険契約の履行を求めてくる事態を想定していなかった。だが、住宅バブルの崩壊で住宅ローンが一斉に焦げ付き、住宅ローンの証券化商品が相次いで債務不履行に陥ると、AIGの支払い能力を超える請求が舞い込んだ。

 CDSのもう1つの問題は、企業対企業の個別の契約で外からは条件が分からない上、どんどん転売されていくため、取引実態や市場価値が把握できないこと。またどこで爆発するか分からない、と言われているのもそのためだ。

 米政府はCDSの清算機構を作り、取引が公正に行われるようにしようとしている。うまくいけば、貸し倒れリスクに対する保険という目的どおりの、怖くも何ともない金融商品になるだろう。

[2009年4月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中