最新記事

宮崎駿(1941-)

インタビュー ザ・日本人

昭和天皇、渥美清、宮崎駿から
柳井正、小沢一郎、二宮和也まで

2010.01.21

ニューストピックス

宮崎駿(1941-)

「制作中は日本の観客のことしか考えていない」

2010年1月21日(木)12時07分

[2005年6月29日号の掲載記事を2006年2月1日号にて再録]

日本で観客動員数1500万人を記録した『ハウルの動く城』。この映画がアメリカに上陸した翌週、ふだんはめったに取材陣の前に姿を現さない宮崎駿が、本誌デビン・ゴードンに本音を語った。海外の反応や将来の展望について打ち明ける宮崎は、ブラックユーモアを漂わせた「前向きな悲観論者」の素顔を見せた。

----なぜ取材に応じる気に?

 「もうやってしまえ」と思ってね(笑)。プロデューサーばかりに取材を受けてもらうのも悪いし。

----アメリカの子供はあなたの作品を見て夢中になるか、戸惑うかのどちらかだ。ふだんは、あなたが作るような作品を見る機会がまったくないようだが。

 それは日本の子供も同じだ。私は数年に1本のペースでしか作品を作れない。だからその間は、日本の子供も普通のアニメや子供向け番組を見ている。

 「いま作っている作品があるけれど、完成するのは3年後だ」と言うと、子供はショックを受ける。私の3年と子供の3年では、かなりの差があることに気づいた。

----アメリカでも自分の作品が成功を収めるよう願っているか。

 制作中は日本の観客のことしか考えていない。外国の人にも楽しんでもらえればうれしいが、国際的なビジネスとは考えないようにしている(笑)。おそらく私のプロデューサーは、正反対のことを言っているだろうが。

----ストーリー展開は欧米の観客にとってなじみがない。

 話が理解できないという人はたくさんいる。彼らは物語とはこう展開するものだと決めてかかっていて、予想が裏切られると文句を言う。それはおかしいと思う。

----そうした現状を変えるには?

 変えられないだろう。型どおりの作品が多いほど、人々の固定観念は強まる。私の父は、最初の3分で結末がわかるようなテレビ番組しか見なかった。

----以前は『千と千尋の神隠し』が最後の作品になると言っていたが、考え直したのはなぜか。

 映画監督は「元」という言葉がつかない数少ない職業の一つだろう。一度なったらずっと監督だ。監督に与えられる権威を一度手にすると、手放せなくなる。

----『ハウルの動く城』も最後の作品にはならないと考えていい?

 ベストは尽くすつもりだ。今は三鷹の森ジブリ美術館のために短編を作っている。長編作品の構想はあるが、まだ形になっていない。今の世の中は、不安が生活を支配する主旋律になっている。(だからこそ)とんでもなくハッピーなものを作らないと。

----日本ではアニメ産業が衰退しつつあるというが。

 死の床についていると言っていいありさまだ。才能ある若手が出てこない。スタジオジブリは若者が働く場所だったはずだが、今ではおじいさんとおばあさんの職場になりつつある。

----押井守監督が以前、あなたは心の奥底で日本を破壊したがっていて、流血シーンの多い映画を撮りたいと思っていると言っていた。

 (笑)日本を破壊したいわけじゃなくて、壊されるだろうと考えているだけだ。

----それにしても、押井はなぜそう思ったのだろう。

 私が「大地震が起きるなら、さっさと起きればいい」などと言うからだろう(笑)。確かに私の考え方は悲観的だ。でもふだんは、とても前向きな気分でいる。 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、11月CPIが予想下回る 

ビジネス

トランプ氏、FRB議長候補のウォラー理事と面会 最

ワールド

トランプ氏、大麻規制緩和の大統領令に署名 分類見直

ワールド

米政権、ICC判事2人に制裁 イスラエルへの捜査巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 9
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中