最新記事

デービッド・キャラダイン(アメリカ/俳優)

今年を駆け抜けた人に
さようなら

世界に大きな影響を与えた
著名人・スターの軌跡

2009.12.08

ニューストピックス

デービッド・キャラダイン(アメリカ/俳優)

アクション映画2部作『キル・ビル』で再び輝いた孤高の俳優

2009年12月8日(火)12時01分
ライアン・モテシェアド

ミステリアス 映画『キル・ビル』シリーズで脚光を浴びたが、6月4日に映画撮影でバンコク滞在中に謎の死を遂げた。享年72歳(写真は04年当時) Susana Vera-Reuters

 あれほどの殺戮を見せつけられたら、ラブストーリーに転じるとは誰が予想できただろう。前作の『キル・ビル』でユマ・サーマンが演じたザ・ブライドは復讐の鬼だった。だが『VOL.2』はまぎれもない愛の物語。クエンティン・タランティーノ流ではあるのだが。

「前編ではザ・ブライドの無敵ぶりを描いた」と、監督・脚本のタランティーノは説明する。そして、にやりと笑って「ところが、あいにく無敵じゃなかった」。

 美しき復讐の鬼も、つかみどころがないのに魅力的な男ビル(デービッド・キャラダインが好演)には弱かった。「ビルの正体、2人の関係、ビルの凶行の理由など、前編で残された謎を解き明かすときが来た」と、タランティーノは語る。

 ビルはザ・ブライドの元恋人。ザ・ブライドが別の男と誓いを交わす結婚式の直前に、ふらりと現れる。再会シーンは静かでもの悲しい。場面の設定はマカロニウエスタンだが、タランティーノのせりふは冴えている。「どうやって私を探したの?」と問うザ・ブライドに、うすら笑いを浮かべたビルが言う。「きみの男は私しかいないから」

独占インタビュー「デービッド・キャラダインに聞いた舞台裏」

 そして、この作品の「男」はキャラダインしかいない。ビル役を最初にオファーされたのはウォーレン・ベイティだった(撮影が始まる数週間前に辞退)が、キャラダインは自分こそビルのモデルだと信じている。「クエンティンは私の自伝から素材を借りて脚本を書いていた」と言う。「ウォーレンは偉大なスターだが、私は黙って出番が来るのを待っていた」

 キャラダインによると、ベイティは「私はカンフー映画は嫌いだし、カネをもらってもサムライ映画なんか見たくない」と宣言し、タランティーノと決別。キャラダインに役が回ってきたそうだ。

心に染み入るような余韻

 ある意味でタランティーノの分身でもあるザ・ブライド役は、94年にタランティーノの『パルプ・フィクション』に出演したユマ・サーマン。当時のサーマンは大勢の女優に交じってオーディションを受け、役をつかんだ(アカデミー賞候補にもなった)。以来、タランティーノとは友人同士だ。

 実際、「復讐に燃える花嫁」というアイデアは、『パルプ・フィクション』の撮影中に酒を飲みながら2人が交わした会話から生まれたという。10年後、タランティーノはサーマンの誕生日に『キル・ビル』の脚本をプレゼントした。しかし、サーマンの妊娠のために撮影は延期された。

 タランティーノによると、延期になったおかげで登場人物の心理をより深く掘り下げることができた。「VOL.2では、観客は女優サーマンに心を揺さぶられるだろう」と、タランティーノは映画雑誌プレミアに語っている。「子供を奪われた母親の心の反撃だ」

 前編は「彼女は知っているのか? 娘がまだ生きているということを」というビルの言葉で幕が下りた。VOL.2には、死んだはずの娘と対面するシーンがある。実生活でも母であるサーマンにはやりやすかったという。「殺し屋よりも母親のほうが共感しやすい」からだ。ザ・ブライドの娘は自分の娘マヤがモデルだとも、サーマンは誇らしげにつけ加えた。

 ファンが期待するタランティーノならではの「奇妙なキャラクター、サプライズ、こっけいな要素」も健在だ。とはいえ、『VOL.1』と一線を画すのは、心に染み入るような余韻にほかならない。『VOL.1』には、タランティーノがほれ込んでいるヤクザ映画やカンフー映画、マカロニウエスタンを集めて焼き直したにすぎないという批判があった。叙情的な『VOL.2』は、その批判を覆すものだ。

 サーマンは前後編の2本とも見て評価してほしいと言う。「クエンティンは1本の映画にすると言い張っていたけど、(質的にも量的にも)2本分の材料は十分にあった。だから1本だけ見たのでは不十分。2本で一つの作品なのだから」

[2004年5月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中