最新記事

牛のゲップをグリーン化せよ

温暖化「うま過ぎる話」

エコ助成,排出権,グリーンニューディール
環境問題はなぜ怪しい話や
誤解だらけなのか

2009.11.24

ニューストピックス

牛のゲップをグリーン化せよ

温室効果ガスを減らすために牛の餌を変えたり遺伝子を操作してエコなビーフを作り出す試みが始まった

2009年11月24日(火)12時08分
マック・マーゴリス(リオデジャネイロ支局)

 牛ほど有益な動物は少ない。きちんと牧草を与えて世話をすればハンバーガーやチーズ、そして牛革や畑の肥料まで提供してくれる。

 ところが最近、過激な環境保護団体やポール・マッカートニーら菜食主義者のセレブたちが、牛は「大量破壊兵器」だと言いだした。牛肉が高血圧や心臓病の原因になるだけでなく、牛が熱帯雨林や農地を破壊し、温室効果ガスを排出しているという。

 環境科学の専門家によると、ホルスタイン1頭は毎年最大で180キロのメタンガスを排出している(メタンガスは同量の二酸化炭素の25倍の温室効果がある)。国連によると、牧草の栽培から牛肉の調理まで合わせると、牛は世界の温室効果ガス排出量の18%に関連しているという。

 昨年、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のラジェンドラ・パチャウリ議長は、1週間のうち最低1日は肉を食べないよう求めた。ここから「ミートフリー・マンデー(肉を食べない月曜日)」というキャンペーンが始まった。「地球を救いたければ、肉を食べなければいい」と、マッカートニーは呼び掛けた。

 そうかもしれない。だが1960年以降、世界の食肉生産量は4倍に増え、年間2億8000万トン以上になった。たとえ先進国の全員が今日から肉を断っても、中国やブラジルなどの途上国で中間層が増大する限り、食肉消費は増え続ける。このため環境保護の専門家たちは、食肉産業を排除するのではなくエコ化することに的を絞り始めた。

 これは難題だ。森林を伐採して牧草地を造ったり飼料栽培に使う化学肥料を製造したりと、確かに牛肉や豚肉、鶏肉の生産過程は環境破壊につながることもある。

 エコ雑誌「プレンティ」によると、食肉の生産は豆腐と比べて17倍の土地、26倍の水、20倍の化石燃料、6倍の化学物質を消費する。特に牛肉は消費が激しい。牛肉1キロの生産には鶏肉1キロの生産の7倍、豚肉1キロの生産の15倍の土地が必要だ。

 しかし科学者や食肉業者、環境保護団体は、供給プロセス全体を見直すことで環境への負荷を減らせると確信している。牛に与える餌を変えたり、遺伝子工学で環境を壊さない牛を作ったりするのだ。食物安全活動家マイケル・ポーランが言う「グリーンミート(エコな食肉)」を求めて、世界中でにわかに取り組みが始まった。

牛のゲップ=メタンガス

 まず、牛自体を変える試みがある。牛が餌を食べると、副産物として胃からメタンガスが発生し、ゲップとして放出される。牛の胃は牧草を効率良く消化できるようになっているが、畜産農家が与える大豆やトウモロコシは牛の胃に過剰なガスを充満させる。

 対策として餌の「原点回帰」が始まった。大豆やトウモロコシは40〜60年代に大量増産できるようになって以来、牛の飼料として普及したが、米バーモント州の牧場ではこれらをやめてみた。すると牛が健康になって牛乳の生産量が増える上、メタンガスの排出量が減ることが分かった。代わりに与えた餌は、栄養分と良性の脂肪酸が豊富な昔ながらの亜麻やアルファルファ。この手法はフランスで広く用いられており、アメリカでも各地に導入され始めた。

 牛の飼育が温室効果ガスの排出量の72%を占めるカナダでは、科学者が飼料の配合を変えて排出ガスを減らそうとしている。繊維質や脂肪、糖分、でんぷんといった栄養分のバランスを調整する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中