最新記事

「麻生vs鳩山」報道の勘違い

オブザーヴィング
民主党

気鋭の日本政治ウォッチャーが読む
鳩山政権と民主党ニッポンの進路
by トバイアス・ハリス

2009.09.14

ニューストピックス

「麻生vs鳩山」報道の勘違い

総選挙の構図は「国民の信頼を失った自民党」対「国民の信頼を得るのに苦労している民主党」だ

2009年9月14日(月)18時22分

[2009年8月17日更新]

 8月30日の総選挙で民主党が勝てば、衆院議員の任期が満了する4年後まで「鳩山首相」が政権を担い続けるべきだと、民主党の岡田克也幹事長が主張している。選挙で鳩山由紀夫代表が国民の信任を得るとすれば、そうするのが適切というわけだ。

 この主張は理解できないでもない。何しろ日本では、この4年間で4人もの首相が入れ替わってきた。しかし、(ここでは詳しく論じないが)日本の国政のことを考えると、民主党には鳩山に代わるリーダーを見つけてほしいと私は思っている。

 いずれにせよ、途中で鳩山が首相の座を降りても問題はない。なぜか。私に言わせれば今回の選挙で問われているのは、自民党と民主党の両党首の個人的資質ではないからだ。

 それに、選挙後に民主党が政権を握り、改革に成功すれば、首相の影は今より薄くなるはずだ。菅直人代表代行など民主党幹部たちは、首相個人の権力ではなく、内閣の機能を強化する重要性を強調してきた。

 実際には、投票日まで残り2週間を切り、「麻生太郎首相vs鳩山由紀夫代表」という図式の報道がますます増えるに違いない。

 日本のメディアがそう描きたくなるのは、この2人の家系のせいでもある。麻生と鳩山の祖父はともに日本政界の実力者で、保守政治の主導権をめぐりかつて激しくぶつかり合ったことがある。

総選挙の主役は党首でなく政党

 しかし今回の選挙の興味深い点は、2人の祖父の時代と共通点がほとんどないことだ。1954年に鳩山の祖父・鳩山一郎が麻生の祖父・吉田茂を首相の座から引きずり降ろし、翌年の自民党結党に道を開いたときとはまるで事情が違う。

 この半世紀余りの間に、日本の政治は大きく変わった。吉田と鳩山の闘争は主に密室で戦われて、そこでは岸信介のような政治家が暗躍した。

 では、2009年の日本はどうか。(立ち位置がはっきりしない面はあるが)おおよそ中道左派の政党と中道右派の政党が衆人監視の場で議論し、マニフェストを発表し、党首や幹部が遊説で全国を駆け回っている。

 日本の有権者も8月30日、党首の性格より、こうした政党の公約や主張を基準に投票するつもりでいるようだ。もし個人の性格が有権者の判断に関係してくるとしても、それは個々の選挙区で出馬している候補者の性格であって、党首の性格ではないだろう。

 いま吉田茂の孫と鳩山一郎の孫が日本の2大政党の党首として次期首相の座を争っているのは事実だが、日本の政界で多くの世襲政治家が重要な地位を占めていることを考えれば、単なる偶然にすぎないと見なしていい。

 政治を論じるとき、メディアはしばしば「個人」を強調しすぎる。麻生を自民党政権崩壊の「戦犯」と決め付ける報道は多いが、実際のところ麻生は「まずい時期にトップの座に就いていただけ」という側面が大きい。

 今回の選挙の主役は、間違いなく政党だ。国民の信頼を失った自民党。国民の信頼を得るのに苦労している民主党。この2つの政党の対決のドラマこそが、8月30日の最大の焦点だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中