最新記事

『ワイルドバンチ』

シネマ!シネマ!
シネマ!

あの名作、話題作を
辛口レビューで斬る
増刊「映画ザ・ベスト300」
7月29日発売!

2009.08.03

ニューストピックス

『ワイルドバンチ』

恐怖と高揚感を呼ぶ殺戮シーンの美学

2009年8月3日(月)13時10分

 賞金稼ぎに追われながら、メキシコへ流れていく無法者の一団を描いたサム・ペキンパー監督の『ワイルドバンチ』。今でこそウエスタンの古典と称されるが、公開当初は評価が真っ二つに分かれた。

 とりわけ問題だったのは残酷な映像。当時の観客は文字どおり度肝を抜かれた。人間の死の瞬間がこれほど執拗に、しかも官能的にスクリーン上で表現されたことはなかった。脚本家のデービッド・ウェデルが書いたペキンパーの伝記『動いたら、撃ち殺せ!』によると、試写会では映像に耐えられなくなった観客が30人ほど逃げ出し、何人かは路上で吐いたという。

 ペキンパーは殺し合いのシーンに、撮影速度を変えた6台のカメラを使用。こうしてスローモーションを駆使したリアルで幻想的な世界が生まれた。

 ペキンパーが突き付ける残酷シーンを目にすると、観客は震えと同時にある種の高揚感を抑え切れなくなる。人の心の奥底には血への渇望があると、ペキンパーは信じていた。複雑に錯綜した彼のバイオレンス観を土台に描き出された死。その衝撃的な美しさを、私たちは認めないわけにはいかない。

 ウエスタン映画から善悪の二元論を払拭したのもこの作品だ。ウィリアム・ホールデンをボスとする流れ者の一団は強盗を企てるが、ロバート・ライアン率いる賞金稼ぎたちの待ち伏せに遭う。何の関係もない人々まで巻き込んだ壮絶な銃撃戦には、もはや正義も悪もない。登場するのは悪漢と、多少ましな悪漢だけだ。

 しかし冷笑的な姿勢に隠された「男のロマン」は、アウトローを忘れ難い存在に変える。この作品の熱烈な支持者がほとんど男であることや、マーティン・スコセッシやウォルター・ヒルなどペキンパーに心酔する監督が例外なく「男の映画」の作り手なのもうなずける。

 もっとも、この作品には欠点もある。メキシコの小さな村で男たちが過ごす場面は感傷的過ぎるし、笑い声も芝居がかっている。

 しかし、この映画を簡単に忘れられる人などいるだろうか。『ワイルドバンチ』には別れの調べがある。その悲しい響きは心に染み入り、消えようとしない。

 死を予感しながら破滅へ突き進む男たちの年輪を刻んだ顔。彼らは英雄でも悪漢でもない。第一次大戦直前という1つの時代の終幕に居合わせた、ただの男たちだ。彼らに安息をもたらすのは死だけだった。

[1995年3月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:イラン戦争でインフレ再燃、トランプ政権に

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、中東停戦維持期待で安全資産

ワールド

イラン交渉団がパキスタン到着、レバノン停戦要求 米

ビジネス

米国株式市場=まちまち、中東交渉控え様子見 ハイテ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 4
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 5
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 6
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 7
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 8
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 9
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 10
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中