最新記事

『ロスト・イン・トランスレーション』

シネマ!シネマ!
シネマ!

あの名作、話題作を
辛口レビューで斬る
増刊「映画ザ・ベスト300」
7月29日発売!

2009.08.03

ニューストピックス

『ロスト・イン・トランスレーション』

異国ニッポンでの切なくてオフビートな自分探し

2009年8月3日(月)12時55分

 ソフィア・コッポラの監督デビュー作『ヴァージン・スーサイズ』の感想を聞かれた女優スカーレット・ヨハンソンは、本音でこう答えた。「小説の映画化は、いつだってむずかしい。あの映画は好きになれなかった。『ロスト・イン・トランスレーション』のソフィアは、ずっと上手だった」

 このコッポラ評は的を射ている。ベストセラーに頼らずに作ったこの作品で、彼女は確かな目をもつ映画人であることを証明した。

 ヨハンソン演じるシャーロットは、写真家の夫が仕事に夢中なのでいつも独りぼっち。そんなとき、ウイスキーのCMに出演するため日本を訪れた俳優ボブ(ビル・マーレー)に出会う。人生の目的を見いだせない若い女と、中年危機の男。2人が一緒に過ごすつかの間の時間が、この繊細でおかしく、もの悲しいコメディーの核になる。

 CM撮影のシーンでは大いに笑わせるが、マーレーはいつもの彼とは違う。シニカルな仮面を脱ぎ捨て、中年男の揺れる心をさらけ出す最高の演技だ。ヨハンソンも、マーレーに引けを取ることなく、異文化の東京で疎外感にさいなまれる大人の女性を演じきった。

 コッポラの視点はぶれることがなく、表現は軽やかだが緻密そのものだ。細部の描写は見事というほかはない。父フランシス・コッポラの映画が壮大なオペラだとしたら、娘の作品は繊細な室内楽といえるだろう。

[2004年4月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、来年APEC巡る台湾の懸念否定 「一つの中国

ワールド

スペイン国王が18年ぶり中国訪問へ、関係強化に向け

ワールド

LPG船と農産物輸送船の通航拡大へ=パナマ運河庁長

ビジネス

ルノー、奇瑞汽車などと提携協議 ブラジルでは吉利と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中