最新記事

田中淳子(フォトグラファー)

世界が尊敬する日本人

国境と文化の壁を越えて輝く
天才・鬼才・異才

2009.04.08

ニューストピックス

田中淳子(フォトグラファー)

ヒップホップの魂をつかむカメラ

2009年4月8日(水)18時19分
ラミン・セトゥデ(ニューヨーク)

 風景を撮る写真家もいれば、スーパーモデルを撮る写真家もいる。マンハッタン在住の田中淳子(33)は、ヒップホップ・スターを撮る。エミネムにアシャンティ、ディアンジェロ、ブラック・アイド・ピーズ......。

 「写真を始めたのは18か19のころだった」と、田中はマンハッタンのミートパッキング・ディストリクトで遅い昼食をとりながら言う。「どういう写真を撮りたいかなんて、わからなかった。でもずっとヒップホップが好きだったから、大好きなアーティストを撮ろうと思った」

 怖いもの知らずな夢だ。写真で食べていくどころか、作品が日の目を見ることすらない写真家志望は、ごまんといるのだから。

 だが、田中の写真はバイブやトレース、ダイムなどアメリカ有数の人気雑誌に採用されてきた。「こんなにたくさんの写真を使ってもらえる写真家は珍しい」と、本人も言う。「誰かに作品を見せると、『スターはあらかた撮ったね』と言われる」

 田中は歌詞の意味もわからずにヒップホップを聞きながら、東京で育った。18歳でファッションの道を志し、カリフォルニアの大学に進学。だが、授業で写真を学んだのをきっかけに、進路を変えた。

セレブの気取りをはぐ

 日本の雑誌に売り込みをかけたところ、若者向け雑誌Fineが初仕事をくれた。その後は数年間、ブラック・ミュージック・リヴューやBLASTといった日本の音楽誌で活躍。程なくアメリカの雑誌からも声がかかるようになり、売れっ子写真家の仲間入りを果たした。

 田中のウェブサイト(http://www.atsukotanaka.com)を見れば、引く手あまたの理由はよくわかる。田中のポートレートは被写体の気取りをはぎ取り、生の喜怒哀楽、ときには孤独な魂をもえぐり出す。

 たとえば、マッチョで派手なイメージのラッパー、50セントは黒い野球帽をかぶり、白い壁をバックに憂い顔だ。

 「見る人に、写真の背景の空気まで感じてもらえたらうれしい」と、田中は言う。

 アパレルなどを手がけるジェフ・ステープルは、ファッション・フォトの撮影に田中を起用した。「セレブの写真は、被写体の心が伝わってこないものが多い」と、ステープル。「だが、アツコの作品には奥行きがある。彼女には、被写体の魂をつかむ才能がある」

 最近は、大手レコード会社のアルバムジャケットの写真撮影を依頼されるようになった。音楽専門チャンネルVH-1の番組でも、田中が撮ったネリーやJAY-Zのポートレートが使われる。

 業界での田中の存在感は大きくなる一方だ。

[2006年10月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 3
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 4
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中