最新記事

ビッグスリーはもう要らない

ビッグスリー
転落の構図

デトロイトを泥沼に陥れた
20年間の勘違い戦略

2009.04.08

ニューストピックス

ビッグスリーはもう要らない

競争力があり労組にも縛られない第2の自動車産業が、活力を失ったデトロイトの自動車産業に取って代わる

2009年4月8日(水)16時24分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

 ケンタッキー州中部の町ジョージタウンはかつて、二つの特産物で知られていた。バーボンウイスキーと馬だ。1789年、バプテスト派の牧師イライジャ・クレイグが初めてバーボンを蒸留したのがこのあたりといわれている。町を取り囲む牧場では、サラブレッドがブルーグラスを食み、速足で駆け抜けていく。

 だがその町がこの20年で、別の種類の「馬力」によって静かな田舎町から活気に沸く郊外都市に変貌した。その力の正体は、カムリやアバロンやソラーラ。トヨタ自動車が生産する自動車だ。

 税制優遇など州の誘致が実り、トヨタがここに巨大な生産工場を完成させたのは88年。以降、田園風景は一変した。

 トヨタは広さ5.3平方キロの工場に53億ドルの投資を行い、今ではざっと1分に1台車を生産するまでになった。ジョージタウンの人口は倍増し、かつてタバコを栽培していた畑や牛を飼っていた牧場には豪邸やアパート、マンションなどが立ち並ぶ。工場のそばには、7000人の従業員の消費需要をねらう大規模ショッピングセンターも造られている。

 「トヨタ誘致のために州が行った投資は何倍にもなって報われた」と、ケンタッキー州上院議員のデーモン・セイヤーは言う。

 もちろんジョージタウンの工場も、デトロイトのビッグスリー(米自動車大手3社)を破綻のふちに追い込んだ市場環境の悪化と無縁ではない。最近は派遣労働者250人に一時帰休を申し渡したし、減産も強化している。

 それでも、塗装部門のチームリーダーを務めるブライアン・ハワード(42)に不満はない。賃金は高いし、医療保険の保険料も家族で月74ドルと安い。「会社は何年も前から、いざというときのそなえはあると言ってきた」と、彼は言う。「今がそのときだが、ビッグスリーと比べればよくやっている」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中