最新記事

ビジョンの欠けたオバマの就任演説

オバマのアメリカ

チェンジを掲げた大統領は
激震の超大国をどこへ導くのか

2009.04.24

ニューストピックス

ビジョンの欠けたオバマの就任演説

経済危機の最中という非常事態であっても、政府の役割についての哲学は不可欠。オバマの演説に感じた「物足りなさ」は何だったのか

2009年4月24日(金)09時29分
ジェイコブ・ワイズバーグ(スレート・グループ編集主幹)

 いまアメリカ合衆国大統領となった自分が描く理想の政府像とは何か。就任演説は、それを雄弁に語る絶好の機会だ。

 1965年のリンドン・ジョンソンは、連邦政府の役割を広げようと呼びかけた。そうして経済的・人種的な不公正に立ち向かおう、「この偉大な富をもつ国に、絶望的貧困に生きる家族がいてはならない」から、と。81年、ロナルド・レーガンはこのジョンソン流の「偉大な社会」に異を唱える。「政府の肥大化をチェックし、逆転させる」と宣言した。

 あいにくレーガン時代にも政府は小さくならなかったが、チェック機能は働いた。以後の歴代大統領も、政府を大きくしないという同じ路線を踏襲してきた。

 89年のジョージ・H・W・ブッシュは富める者の自発的な「寛容」に期待し、93年のビル・クリントンは政府と国民の「新たな社会契約」を提唱し、国民の自己責任を強調した。01年のジョージ・W・ブッシュは、基本的に父の路線を引き継いだだけだ。

 09年のバラク・オバマはどうだったか。「問題は政府の大小ではない、有効に機能しているかどうかだ」とオバマは言った。「国民が職に就き、適切な医療を受け、老後を安心して暮らせるよう、きちんと手助けしているかどうか。答えがイエスなら(その政策は)続ける。ノーならやめる」

 主義主張にとらわれないオバマらしいアプローチといえる。私たちの耳にも、冷静で分別をわきまえた発言と聞こえた。

どんどん強大になる政府

 とはいえ、就任式の陶酔感も薄れた今、あらためて演説を読み直してみると、一国を統治する哲学としてはいかにももの足りない。「なんであれ機能していればOK」というだけでは、政府の役割に関するビジョンと呼べない。

 こうした実効性重視のリベラリズムでは、行動と意図、手段と目的が取り違えられかねない。この演説だけでは、最低限の年金支給や国民皆保険の実現、収入格差の是正が政府の責務なのかどうかもはっきりしない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、25日に多連装ロケット砲の試射視

ビジネス

4月東京都区部消費者物価(除く生鮮)は前年比+1.

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中