コラム

新型コロナで窮地の習近平を救った「怪我の功名」

2020年05月22日(金)16時59分

得意満面?の様子で全人代の開幕を迎える習近平(5月22日、北京) Carlos Garcia Rawlins-REUTERS

<コロナ禍で風前の灯火だったはずの習近平政権はなぜか権威を回復。一党独裁体制はむしろ強化された――習礼賛報道から浮かび上がる中国と世界の今後の姿>

5月15日、上海春秋発展戦略院という民間シンクタンクが開設するニュースサイト観察者網が「疫病との闘いに成功し、中国人民は自分たちの指導者をより一層信頼する(抗疫成功,中国人民更信任自己的领导人)」と題する長文の寄稿を掲載した。

執筆者の李世黙氏は名門・復旦大学中国研究院の研究員で、上述の春秋発展戦略院の研究員も兼任している。この原稿はもともと英語で書かれ、5月14日に米フォーリンポリシー誌の公式サイトで公開された(Xi Jinping Is a 'Good Emperor')。原稿の中国語版が観察者網で掲載されたところ、環球時報など国内の著名メディアも転載し、中国国内では広く読まれた模様である。

寄稿の内容はそのタイトルの通り、中国の指導者、すなわち習近平国家主席その人を褒め称えるものだ。

寄稿はまず、「抗疫=疫病との闘い」において、中国は党の指導による挙国体制の下で奇跡的な勝利を収めたと賞賛的に記述した上で、記事の中での習近平の行動や役割について次のように述べている。

「1月28日、習主席はWHOのテドロス事務局長の会談を利用して、疫病との闘いは自分が直接に責任を取ることを全国民に告げた。その時には、中国の民衆は暗澹たる未来に不安を抱き、指導者はかつてない大きなリスクと圧力に直面していた。しかし機会主義的な考え方や責任回避は、もとよりこの指導者の性格には合わない。(その時点では)武漢と湖北省全体に対する都市封鎖の意思決定がどのような結果をもたらすかは全く予測できない。このような意思決定は彼1人しかできない。それがもたらす結果への責任も彼しか背負うことができない。そして今から見れば、彼の下した(武漢封鎖)の決定は国家を救った。

彼は一連の中央政治局会議を主宰し、政策の指示を出し、それを公表した。彼はマスクをつけてテレビに現れ、最前線の17万人の政府幹部とボランティアを相手にテレビ会議を開いた。彼は全国民の前で疫病と戦う人民の戦争を自ら指揮したのである」

以上が観察者とフォーリンポリシー誌に載った習近平に対する賞賛の文面だが、そこでは習近平は、国民が未来への暗澹たる不安を抱く中で、すべての責任を一身に背負って果敢な意思決定を行い、国を救った英雄的指導者として描かれている。

5月20日、新華社通信と並ぶ国営通信社の中国新聞社も公式サイトで「抗疫」における習近平の功績を讃える長文の記事を掲載したが、記事は冒頭からこう書いている。

「疫病を迎撃した最初の国として、中国が巨大な犠牲を払ってコロナウイルスの感染拡大を有効的に封じ込めた。この成功の背後にあるのは、最高指導者の習近平主席が『人民第一』に基づいて行なった歴史的選択であり、世界の公共衛生史上前代未聞の動員である。

14億人が参加した疫病との戦いにおいて、習主席は自ら指揮をとり、自ら采配を振るった。(主席の)挙動の1つ1つがテレビやネットで映され、人々に深い印象を与えた。その場面の1つ1つは歴史の記憶に、そして国民の心の中に刻み込まれた」

このように始まる記事は、続いて前述の観察者網記事と同様、武漢封鎖という「歴史的英断」を下したことや17万人参加のテレビ会議を主宰したこと、あるいは習近平が自ら武漢に赴いて視察したことなどを取り上げ、それら「歴史的場面」における習近平の采配ぶりを回顧しながら、彼の奮闘と決断がいかにして中国の人民と国家を世紀の大災難から救い出したかを縷々述べていく。この描写から浮かび上がってくるのはすなわち、人民を愛し国を愛し、優れた決断力と指導力を持ってこの国を救った英雄的な習近平像であり、中国という大国に相応しい偉大なる指導者像である。

以上は、5月中旬の時点で中国の国内メディアで流行っている習近平礼賛の例だが、これらは断片に過ぎない。習への手放しの絶賛は今、中国官制の言論空間にあふれている。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

エプスタイン文書追加公開、ラトニック・ウォーシュ両

ワールド

再送-米ミネソタ州での移民取り締まり、停止申し立て

ワールド

移民取り締まり抗議デモ、米連邦政府は原則不介入へ=

ビジネス

アングル:中国「二線都市」が高級ブランドの最前線に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 4
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 7
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 6
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 9
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 10
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story