コラム

大義なき悲惨な戦争...プーチンは、ブッシュの「イラク戦争」を見習った?(パックン)

2022年03月23日(水)17時25分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
ブッシュ元米大統領

©2022 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<相手国に妄想を抱き、もしくは妄想を国民に信じ込ませ、血みどろの結果を招いたウクライナ戦争とイラク戦争の共通点。世界にとっては悲劇的なデジャブだ>

ロシアのウクライナ侵攻のニュースを見ていると、以前にも同じ体験をした錯覚を覚える。「デジャブ」というやつだ。相違点も多いが、2003年のイラク戦争時との共通点を風刺画はうまく要約している。

まずはdelusional president(妄想を見ている大統領)。ロシアのプーチンもアメリカのブッシュ(当時)も相手国に大量破壊兵器や核兵器の開発計画があることなど、全く現実と無関係の空想を信じているようだ。もちろん、わざと国民と世界をだまそうとウソをついた可能性もあるが。

ちなみにある調査によると、ブッシュと米政府幹部7人は計935回もこういったウソをついたという。7人で935回のウソ!

まあ、「1人で3万回以上のウソをつく」という記録を樹立したトランプ前大統領の前ではかわいく感じる数字だけど。

侵攻の理由が計算ずくの偽りだとしても、プーチン政権やブッシュ政権は侵攻軍が相手の国民に「解放軍として歓迎される!」と思い込み、早期勝利を見込んでいたようだ。これもれっきとした妄想だろう。戦争の期間の長さやコスト、犠牲者の数などを楽観的に見積もっていたのもそうだ。

両大統領の夢は甘かったが現実は苦い。風刺画によればどちらの戦争もbloody, unjust war(血みどろの大義なき戦争)だ。イラク戦争の犠牲者数は調査によって大きく変わるが、少なくとも15万人、多くて100万人以上とされる。ウクライナ戦争の死亡者数は......残念ながらここに記しても、このコラムが世に出るまでに数字が古くなってしまうかもしれません。

最後の共通点は国際社会が戦争を抑止できなかったこと。イラク戦争はロシア、ドイツ、フランス、中国などが反対した。ウクライナ侵攻後にロシアは141もの国から非難され、史上最大規模とされる経済制裁を科された。厳密には世界はsit by and allow(傍観していた)わけではないが、どちらにおいても侵攻を止める力はなかったようだ。

これらの共通点は偶然かもしれない。またはプーチンがブッシュから見習ったのかもしれない。いずれにせよ、ウクライナ情勢を見ていると、以前も同じ体験をした錯覚を覚える。「デジャブ」というやつだ。あっ、この文もデジャブか?

ポイント

HOW CAN THE WORLD SIT BY AND ALLOW A DELUSIONAL PRESIDENT TO ENGAGE IN A BLOODY, UNJUST WAR?
一体どうして世界は妄想狂の大統領が血みどろの大義なき戦争を始めるのを傍観しているのだ?

OH, RIGHT...
あっ、そっかぁ......

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾最大野党主席、中国版インスタの禁止措置は検閲と

ビジネス

ドイツ景気回復、来年も抑制 国際貿易が低迷=IW研

ワールド

台湾、中国の軍事活動に懸念表明 ロイター報道受け

ビジネス

市場動向を注視、為替市場で一方向また急激な動きもみ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story