コラム

15歳の息子に銃を与え、銃乱射事件の予兆を「すべて見逃した」親の教育方針

2021年12月21日(火)18時18分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
警戒標識(風刺画)

©2021 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<11人の死傷者が出た銃乱射事件の容疑者は授業中に弾丸を買おうとし、グロテスクな絵を描いていたが、学校に呼び出された親は知らん顔>

僕はお手本のような親ではない。パックンマックンのライブを見た翌日に長男がコントのセリフ「洗剤でも飲もうかな」を小学校で言いふらしていたことで呼び出されたこともある。

だが、Caution: Bad Parents(注意:悪い親)という標識を立てられるほどではないだろう。アメリカで、それが必要そうな親に注目が集まっている。ミシガン州の高校で11人の死傷者が出た乱射事件の容疑者の親、クランブリー夫妻だ。

2人は2021年11月26日、クリスマスプレゼントとして15歳の息子に半自動式拳銃を贈った。それだけでは悪い親とはされない。銃をプレゼントする親は多いのだ。不思議なことに、アメリカの子供にとって「平和の王子」イエス様の誕生日は殺傷力アップの日でもある。

悪いのはその後。事件の前日に息子は授業中に携帯電話で「弾丸ショッピング」をしていたようだ。短時間でたくさん買うという意味ではなく、本物の弾丸をサイトで物色していた。

教師にそれを知らされた母はすぐ息子にメールを送ったが、その内容をクイズにしてみよう。「(笑)。怒っていないわ。でも〇〇を学ばないといけないよ」というメールだが、〇〇の中に入る、学んでほしいことはなんでしょう? 正解は「試験に出る情報」や「教育を正しく受ける姿勢」ではなく「(弾丸を検索していることを)見つからないコツ」だ。

さらに事件当日の朝、息子が描いた不気味な絵が教師に見つかり、クランブリー夫妻は緊急呼び出しされた。絵の内容は、ピストル、弾丸、出血している死体。そこに添えられた文章は、「考えるのを止められない。助けて」や「どこも血だらけ」「人生は無駄だ」「世界は死んだ」など。弾丸の次は、ショッキングな絵。親の反応は? カバンに銃が入っているか確認もせず、そのまま息子を学校に置いて帰ること。

そのあと学校で乱射事件が起きていることを聞いた母は息子にまたメールした。でも、安否確認などではなく、「イーサン、やらないで」という内容。そして、父は学校で乱射しているのは自分の息子かもしれないと、警察に連絡した。

「え? 乱射事件?! うちの子、撃たれてない?」と心配するのが普通だが、この2人は「うちの子、撃ってない?」と思ったわけ。それほど心当たりがあれば、事前に止める責任があったはず。2人は過失致死罪で起訴されている。

クランブリー夫妻、悪い親グランプリを取れそう。

ポイント

A SCHOOL ZONE WARNING SIGN WE COULD USE...
スクールゾーンにこんな警戒標識を立てるべきかも...

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

JAL、今期の純利益7.4%増の見通し 市場予想上

ワールド

NZの10年超ぶり悪天候、最悪脱する 首都空港なお

ワールド

日米2回目の関税交渉、赤沢氏「突っ込んだ議論」 次

ワールド

原油先物が上昇、米中貿易戦争の緩和期待で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 9
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story