コラム

反マスク派「モンペ」たちが教育委員会で大暴れ、バイデン政権が対応強化

2021年10月27日(水)14時45分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
反マスク派モンスターペアレント

©2021 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<反マスク、反ワクチン、さらには人種差別を「学ばない」自由を訴えて暴れる親たちがアメリカ各地の学校で大きな社会問題に>

ピッチフォークという熊手のような農具と松明を手にする姿は、村人が怒り狂って「罪人」をとがめるときの定番。風刺画で憤慨しているのは母親で、向かう先はschool board meeting(教育委員会の会議)!

訴えはTシャツに書いてあるNo Vax(ワクチン反対)、No Mask(マスク反対)、No CRT(=Critical Race Theory、批判的人種理論に反対)だ。松明は自由の女神のトーチにも聖火にも見えるが、この人は会議を炎上させる放火ランナー(?)になりそう。

風刺画ならではの大げさな描写だが、現実も十分怖い。アメリカの教育委員会の会議は議論の場であり、保護者の参加が大前提だ。しかし、マスク着用やワクチン接種をしない「自由」と自国における人種差別の歴史や現状を学ばない「自由」に固執する保守系の人々には、「参加」の度が過ぎる人もいる。

委員を怒鳴りつけたり、声を合わせてスローガンを叫んだりして会議の進行を阻止するのはたまに見る光景だ。しかし最近、米各地で起きている抗議では物を投げたり、旗ざおで殴り掛かったり、殺すと脅迫したり、委員の個人情報をネットに公開したりして一線を越えている保護者も多い。

負傷者も出ているし、暴行・脅迫罪や学校に銃を持ち込んだ罪で逮捕された人もいる。この状況を風刺画は学校でのいじめだとしている。いじめっ子がお母さん、いじめられっ子が教育委員会という意外な構図が笑える。

だが、当事者は笑えない。全米教育委員会連合は、過激な抗議がテロやヘイトクライム(憎悪犯罪)と同じように悪質であるとして、バイデン政権に捜査を求める書簡を送った。これを受け、司法長官はFBIなどが対応を強化すると発表した。

だが、連邦政府が動くと保守派の保護者はさらに過熱して、もっと恐ろしい展開が起こり得る。今でも現状に耐えられず辞任する委員が増えており、その穴を埋めるのは反マスク、反ワクチン、反CRTのピッチフォークを持っている人々だろう。現に、共和党員たちがこれらの議題をめぐってリコール選挙を要求したり、委員候補の育成を進めたりしているという。

いずれは、方針に反発する側が方針を決める側に回り、コロナ対策や人種差別関連のカリキュラムを廃止する日が来てもおかしくない。議論ではなく暴動で権力を握るわけだ。ぶっちゃけ、そんな委員会でいいんかい?

ポイント

I HAVE A BULLY PROBLEM AT SCHOOL!
学校でいじめられているんだ

DID YOU TELL YOUR MOM?
お母さんには言ったの?

IT IS MY MOM
お母さんが問題そのものなんだよ

CRITICAL RACE THEORY
社会の仕組みや制度に人種差別が組み込まれているという理論

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、オバマケア巡り保険会社批判 個人への直

ビジネス

英金融当局、リテール投資家の証券投資促進に向けた改

ビジネス

英インフレ率、近いうちに目標回帰へ=テイラー中銀金

ワールド

ウクライナ和平交渉、主権尊重と長期的安全保証が必要
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story