コラム

守られるべき少数派は黒人ではなく白人? 共和党の最大の武器「フィリバスター」とは(パックン)

2021年04月14日(水)17時31分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)
ミッチ・マコネル米上院院内総務(風刺画)

©2021 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<議事妨害「フィリバスター」という制度をうまく利用してきた共和党は、民主党が進める制度の全面廃止に全力で抵抗>

米連邦議会上院で見られる議事妨害「フィリバスター」。語源はオランダ語で「海賊」を意味する言葉だが、まさに海賊のように、これを使う人は国家という船を乗っ取ることができる。

フィリバスターは19世紀半ばに生まれた。過半数の議員が支持する法案でも、審議が終わらなければ採決できない。その事実に気付いた少数派は、審議を永遠に延ばす作戦に目覚めた。つまり、過半数の支持や民意に反しても、1人の議員が演説を続ける限り可決を阻止できるのだ。やった!

このひらめきに一番喜んだのは白人至上主義の議員。フィリバスターは南北戦争以前には奴隷制を守るために、奴隷解放後には黒人の投票権を守る法案や黒人への迫害を取り締まる法案の可決を阻止するために、20世紀半ばには黒人の権利を保障する公民権関連の法案を阻止するために使われた。

皮肉にも、フィリバスターを用いる議員は「少数派の権利を守るため」という口実を使う。社会で苦しむ黒人という本当のマイノリティーの権利より、白人至上主義者の「議員マイノリティー」の権利を優先しているのだ。

1975年にはルールが変わり、演説を強制的に止めるのに必要な議員票の数が100 票中60票に引き下げられたが、同時に実際に演説をする必要もなくした。今やフィリバスターするぞ!とメール1通でできるのだ。

この「吉野家式フィリバスター」(うまい、やすい、はやい)で一番おいしい思いをしているのは共和党のミッチ・マコネル上院院内総務と思われる。オバマ政権下では、少数派のリーダーとして法案の可決だけでなく判事の承認をも妨害した。政府はマヒ状態になり、あきれた国民は2014年の中間選挙で共和党に過半数の議席を与え、16年にトランプを当選させた。

するとマコネルは、上院の仕切り役として今度は最高裁判事の承認におけるフィリバスター制度をあっさり廃止し、猛ペースでトランプ政権が指名する判事の承認を進めた。

しかし、今はまた少数派の立場から多数派の民主党内で議論されているフィリバスターの全面廃止に全力で抵抗している。Ending the filibuster would turn the senate into a sort of nuclear winter!(フィリバスターを廃止すれば上院には「核の冬」が訪れる)とは、実際にマコネルが発した言葉。既に壊滅状態だから変わらないけどね。

【ポイント】
GOP OBSTRUCTION

共和党の妨害。GOPは米共和党の愛称であるGrand Old Party (古き良き党)を略したもの

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、6000件減の21.6万件 7

ワールド

中国、日本渡航に再警告 「侮辱や暴行で複数の負傷報

ワールド

米ロ高官のウ和平案協議の内容漏えいか、ロシア「交渉

ワールド

サルコジ元大統領の有罪確定、仏最高裁 選挙資金違法
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 10
    「世界の砂浜の半分」が今世紀末までに消える...ビー…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story