コラム

露骨すぎる米共和党の民主党支持者差別(パックン)

2018年11月14日(水)11時30分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

ジョージア州の民主党支持者に対する投票抑制策は特に酷い (c)2018 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<都市部の学生の有権者登録をやりにくくしたり、民主党員が多い地域で投票所を減らしたり、共和党の民主党票「抑制」対策は余りに露骨>

昔のアメリカ南部では、白人と黒人の使うものは違った。 separate but equal(別々でも対等)という制度で、だいたい黒人用の出入り口はお店の裏。黒人用の席はバスの後ろ。黒人用のお手洗いは外。黒人用の高校は......ない、などなど。別々であっても、対等では全くない。

風刺画にあるのは、11月6日に行われる中間選挙のジョージア州のWhite(白人)とColored(有色人種)向けballot box(投票箱)。別々だし、大きさが違う。

アメリカの州の選挙制度は州議会で定められるが、共和党はずっと前から、州議会で過半数を占めると「投票抑制策」を推し進めてきた。どの州でも大まかな流れは似ている。まず事前の有権者登録を必要とし、顔写真入りの身分証提示を義務付ける。そしてその種類に制限を設ける。運転免許証や銃登録証は使えるが学生証明書は使えないとか、狙いが見え見え。共和党員の多くは田舎に住んでいて車や銃を持っているが、都市部に住んでいて車がない人や学生はだいたい民主党員。悔しいぐらい賢い手だ。

または、民主党員が多い地域の投票所や投票機会を減らす。遠くまで移動して何時間も列に並ばないと投票できないとなれば当然、票は減る。特に、平日である選挙日に仕事を休めない貧困層の。貧乏暇なしならぬ、貧乏票なしになるのだ。

もちろん期日前なら週末にも投票できる。実は日曜の投票率は黒人が断トツ高い。休日だし、ミサの後にみんなで教会から投票所に行く習慣が根付いているからだ。そこで案の定、日曜の投票を廃止する州が出てきた。日曜にアメフトの試合を見て騒ぐような白人男たちは投票においてだけ安息日を守りたがる。

なかでもジョージア州は特にひどい。Secretary of State(州務長官)が数年前から、数十万人の有権者登録を取り消している。そして、再登録や新規登録に対してはExact Match(完全一致)制度を導入した。申込書の名前や住所が、州の保管する公的記録と1文字でも違ったらはじかれるのだ。ミドルネームがイニシャルになるだけでもだめ。スペースが1個多くてもだめ。Street(通り)をSt.と略してもだめ。どんだけ~!

実は、この細か過ぎるルールに引っ掛かって有権者登録できていない州民は5万人以上いて、その7割が黒人だという。狙いはそんだけ~!

この不公平な制度が注目されるなか、今回の州知事選は奇跡的な対戦カードだ。共和党候補はなんとこの抑制策を導入した州務長官本人! 民主党候補は黒人女性! これほど別々で対照的な対戦相手はない。対等に戦わせてほしいな。

<本誌2018年11月13日号掲載>

※11月13日号(11月6日売り)は「戦争リスクで読む国際情勢 世界7大火薬庫」特集。サラエボの銃弾、真珠湾のゼロ戦――世界戦争はいつも突然訪れる。「次の震源地」から読む、日本人が知るべき国際情勢の深層とは。

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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