コラム

今回もいつもの中国式だった「ゼロコロナ大躍進」の終わり方

2022年12月19日(月)12時20分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
習近平

©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<12月上旬、強権的なゼロコロナ政策からコロッと一転させ、感染拡大による集団免疫へと「大躍進」したのは、1949年の中国共産党誕生以来の伝統。背景には何かあったのか?>

ゼロコロナの解除に反対するのは、海外勢力の陰謀だ──。

中国ではつい先日まで「ゼロコロナ政策」に反対する者は「海外勢力」だったが、今はゼロコロナ解除を疑問視すれば「海外勢力」として取り扱われる。

中国の防疫政策は12月初旬、たった一晩でゼロコロナ政策の緩和へと大転換した。「全国民にPCR検査が必要」から「全国民にPCR検査は不要」へ。強制的なゼロコロナ政策に急ブレーキを踏み、感染拡大による集団免疫へと「大躍進」した。

このやり方はとても中国的だ。1949年の共産中国誕生以来、この国は何でも「大躍進」式だった。

50年代の大躍進運動はもちろんのこと、60〜70年代の文化大革命もこの手法。70年代末から始まり、40年以上続く改革開放政策も全国民参加型の「経済的な大躍進」と言える。それこそが、中国がたった数十年間のうちに、GDPを世界第2位に飛躍させた要因だ。

今回のコロナ政策も当然、大躍進モデルだった。かつて大躍進政策では、小さな畑でとてつもない量の農産物を生産する「畝産万斤」や、イギリスさらにアメリカを追い越す「超英赶美」というスローガンを掲げ、現実を無視した目標を設定した。

これと同様に、ゼロコロナ政策も、科学を無視した不可能なノルマを人民に課した。大躍進政策と同じく、今回のコロナ政策の損害も甚大だった。経済だけではなく、精神的な被害も大きい。何年かかっても癒やされることがないだろう。

10月の中国共産党大会で、ゼロコロナ政策の継続を強調した習近平(シー・チンピン)国家主席は、なぜ急にこの政策を捨てたのか。行きすぎた対策が招いた各地の抗議デモ以外で、その最たる理由は経済破綻の恐れだろう。

長い間のロックダウンによって失業率が押し上げられ、地方政府の財政も深刻な状態に陥っている。ゼロコロナ政策を続けても、この国の新型コロナウイルスはゼロにできないが、経済はゼロになってしまう。

「大跃进万岁(大躍進万歳)」の旗印の下、1人の権力者がかなえたい目標のために、国を挙げて「万衆一心(民衆の心を1つにし)」「不惜代価(代価を惜しまない)」と唱えさせる。その結果、振り回された人民はいつもその代価になってしまう。

ポイント

畝産万斤
限りなく高い生産目標を達成したという虚偽の報告。大躍進運動中に横行した。1畝(667平方メートル)で3万7000斤(18.5トン)のコメを収穫したなどの嘘が人民日報などで喧伝された。

超英赶美
大躍進運動中の1958年、毛沢東が15年でイギリス、50年でアメリカに鉄鋼生産量で追い付くことを提唱。農村の原始的な溶鉱炉で身の回りの鉄製品を溶かし、粗悪な鉄鋼を作る行為が広がった。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story