コラム

中国「愛国者」は香港の悲劇を無視...だが今度は自分が警察暴力の被害者に

2021年07月07日(水)22時31分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国の愛国者(風刺画)

©2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<香港警察の暴力を支持した中国本土の学生たちだが、自分たちが被害者になったときに同じ目に遭ってしまった>

「私は香港警察を支持する」。一昨年、南京師範大学中北学院の学生が中国SNS上でデモを取り締まる香港警察の暴力を支持したとき、たった2年後に自分たちが香港の学生と同様に警察の暴力を受けることなど全く想像できなかっただろう。

6月4日、南京師範大学中北学院など江蘇省・浙江省の5つの大学で大規模な抗議活動が起きた。この5つの大学に属する「独立学院」は、教育省の命令で別の高等職業学校と合併し、職業大学に変わることになった。4年制大学に入学したはずの学生たちは、短大卒業に近い学位になってしまう。

明らかな権利の侵害だが、中国メディアはほとんど報じず、その上、地元警察が大量に出動して抗議する学生たちを殴り、催涙スプレーを吹き付けた。怒った学生たちは中国SNSの微博(ウェイボー)で助けを求めたが、受け取ったのは「私は警察を支持する」という皮肉なリプライだけ。

外国メディアが取材しようとしたが、学生たちはなんと「われわれは愛国学生であり政府を信じる。権利を侵害されても反中勢力に利用されたくない」と、取材に応じなかった。「小粉紅」と言われる未熟な愛国主義者の彼らは、政府批判を許せない売国行為だと考える。「売国奴」の自由派知識人は、今ほとんど口を封じられたか、逮捕されたか、中国ネットから消えた。今回、学生たちを支援する者は1人もいなかった。

現在の中国ネットは小粉紅や極端な民族主義者が跋扈しているが、彼らは新しい敵を探し始めている。

5月、司法・公安を統括する共産党中央政法委員会が微博に「中国の点火VSインドの点火」という写真を投稿した。中国の宇宙ロケット発射とインドのコロナ犠牲者の火葬写真を並べてインドを嘲笑する内容だ。民族主義者で有名な環球時報の胡錫進(フー・シーチン)編集長すら「政府機関の公式アカウントとして不適切」と批判。すると彼も「インドの犬」と罵られた。

香港警察を支持した学生は地元警察に殴られ、民族主義者の編集長は極端な民族主義者に攻撃された。国民を従順にするため権威主義国家は敵をつくり出す。そして気が付いたとき、自分たちと違う考えを擁護する者はいなくなっている。

ポイント

汉奸、外国舔狗、卖国贼
中国の裏切り者、外国の犬、売国奴

独立学院
経済成長に伴う大学入学希望者の増加を受けて、1990年代に生まれた新しい高等教育機関。公立の一般大学と民間の出資者が協力して設立し、大学の本科(学部)レベルの教育を提供する。学費は公立の倍以上。当初は公立の教育機関とされたが、2008年に私学の扱いに変わった。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは156円前半でほぼ横ばい、日銀早期

ビジネス

中国万科の社債急落、政府支援巡り懸念再燃 上場債売

ワールド

台湾が国防費400億ドル増額へ、33年までに 防衛

ビジネス

インフレ基調指標、10月の刈り込み平均値は前年比2
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story