コラム

福原愛を溺愛し、台湾人の夫を罵倒する中国人の心理

2021年03月27日(土)13時30分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

China's Twisted Love / (c)2021 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<「愛ちゃん」は中国のトップ選手にはまず勝てなかった、だからこそ中国人は「かわい過ぎる」存在として認めてきた>

卓球女子元日本代表の「愛ちゃん」こと福原愛の家庭危機が最近、日中両国のSNSで大炎上した。日本では不倫疑惑への批判が多かったが、中国では彼女の夫で台湾人の江宏傑(チアン・ホンチエ)のモラハラが注目され、福原愛を無条件に応援し、江宏傑を一方的に罵倒するファンが多い。

「愛ちゃん、さっさと離婚しよう! あの台湾蛙人は愛ちゃんの夫になる資格がない」「なぜ愛ちゃんが謝罪するのか。あの蛙蛙こそ謝罪するべきではないか」

SNSの新浪微博で9500を超えた江宏傑への罵りでは、「台湾蛙人」「蛙蛙」という言葉がよく使われた。「蛙」は見識がないことを軽蔑することわざ「井底之蛙(井戸の底の蛙)」に由来する。

1980~90年代、貧しかった中国内陸部へ投資する台湾企業家に中国人は金持ちのイメージを抱いていた。ところが近年は中国が金持ちになり、だんだん台湾を見下し始めた。日本人ならまだしも、江宏傑は台湾人だから罵倒しかされない(ちなみに台湾人は単なる家庭トラブルと比較的冷静にみている)。

少女時代から中国・遼寧省のチームで練習をしていた福原愛は、笑顔は天真爛漫、態度も謙虚で礼儀正しく、中国語も遼寧省の東北方言がペラペラなため、中国人から「わが東北の娘」と認められる人気者だ。そして大事なことに、福原愛は中国のトップ選手に勝つことがまずなかった。だからこそ、中国人は福原愛を「かわい過ぎる」存在と認めてきた。

ある中国人ネットユーザーは「愛ちゃんは張怡寧(チャン・イーニン)にしかいじめられない。台蛙のおまえは何者だ!」と投稿した。張怡寧は世界ランキング1位を獲得した中国人卓球選手で、福原愛にとって「大魔王」のような存在。張に負けて大泣きする福原愛を映した動画は中国ネットで話題を呼び、「愛ちゃん泣かないで!」とのコメントが相次いだ。

日本人である福原愛の中国卓球に対する憧れは、現代中国人に自信を与えた。急成長した自国の経済力も台湾人に対する自信になった。福原愛への声援と江宏傑への罵倒。有名人の離婚危機への反応の中に、台湾そして日本に対する中国人の複雑な潜在意識が見え隠れする。

【ポイント】
守护爱酱、打台蛙

「愛ちゃんを守れ」「台湾カエル野郎をやっつけろ」

張怡寧
1982年北京市生まれ。6歳で卓球を始め、2004年アテネ五輪の女子シングルスとタブルスで金メダルを獲得。08年の北京五輪でもシングルスと団体で金メダルに輝いた。五輪、世界卓球選手権、ワールドカップの全てでシングルス優勝の「大満貫」を達成し、卓球女子史上最強選手とも言われた。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スイス・スキーリゾートのバーで爆発、約40人死亡・

ワールド

台湾総統「26年は重要な年」、主権断固守り防衛力強

ワールド

再送トランプ氏、シカゴやLAなどから州兵撤退表明 

ビジネス

ビットコイン、2022年以来の年間下落 最高値更新
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 9
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 10
    米中関係は安定、日中関係は悪化...習近平政権の本当…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story