コラム

試練の広島G7サミットは「存在感の薄い重要国」日本にとってまたとないチャンス

2023年05月18日(木)10時50分

岸田首相は地元である広島を晴れ舞台にできるか ISSEI KATOーREUTERS

<日本はこの10年で「最も健全な民主主義国家」となったのに、長らく国際社会での存在感が薄く、戦略的重要性の薄い諸国の後塵を拝してきた。グローバルサウスの大半で西側諸国の評判が低下している今こそ、日本の指導力が求められる>

5月19 日に広島で始まるG7サミットは、不確実な未来に突き進む世界の中で日本がその要となる輝きを示すまたとない好機だ。この10年で、日本は「最も健全な民主主義国家」を名乗る資格を勝ち得てきた。それはG7各国が相次ぐ危機に揺れるなかでの、いわば消去法によるむなしい勝利だが、果てしない変動の世界で傑出した安定性を示してきたのは確かな事実だ。

経済危機の嵐が迫り、ウクライナによる反転攻勢が始まろうとする今、強力な民主主義国家の指導者たちが集まるG7サミットへの注目は高まるばかりだ。1962年のキューバ危機以来、最も核戦争の脅威が高まっていると言ってもおかしくないこの時期に、被爆地・広島で開催されるというのも強烈に象徴的だ。同地を地元とする岸田文雄首相にとっても晴れ舞台となることだろう。

思えばドナルド・トランプの時代に、日本の国際的地位は高まった。アメリカが衝動的な大統領の下、国際的な貿易協定を無計画に破り捨てるなか、日本は多国間貿易交渉の場で重要な役割を果たしてきた。

世界第3位の経済大国であり、最も安定した民主主義国家である日本は、TPP(環太平洋経済連携協定)をアメリカの不手際から救い出したことで、世界経済の重要な舵取り役としての地位を確立した。そしてルールに基づく秩序を支え、混沌の暗雲が近づくなかで切実に求められる期待感に応えようとしていた。

世界的な混乱が極限に達している今、日本でG7サミットを開催することは、まさに必要とされていることかもしれない。

日本が前回G7サミットを主催した7年前は、中国の「一帯一路」構想が地政学的に深刻な亀裂を引き起こし始めていた。だがあの場で質の高いインフラ構築の原則を強く打ち出したことが効いて、その後のG20大阪サミットでは、中国も多くの原則を受け入れざるを得なかった。歴史が繰り返され、日本が指導力を発揮して、今回も同じように効果のある首脳会談となることを願うばかりだ。

グローバルサウスの大半で西側諸国の評判が低下している今こそ、日本の指導力が求められる。現在の世界秩序では疎外されがちな途上国に威圧的な態度で説教を垂れたりしない日本なら、経済面でも民主主義でも指導力を発揮できよう。

インドを招待した戦略的意味

またインドを招待したことは、欧米の大国よりも公平な真の実力者としての日本の正統性を見せつける巧みな一手だった。それは中国を強く刺激することになり、同国がインド太平洋地域に一段の軍事資源を投入し、軍事力のバランスを回復しようとするきっかけともなったが。

一方、インドの招待は世界のサプライチェーンに混乱をもたらす中国に代わる選択肢としてのインドの将来性を示すシグナルでもある。ロシアのインドに対する影響力を弱め、独裁色を強めるインドの現政権に民主的な改革を促すチャンスともなり得る。こういう微妙な立ち回りができるのは、たぶん日本だけだ。

その実績からすれば、日本は国際社会でもっと尊敬され、影響力を持てていい。社会制度は整っているし、経済力も折り紙付きだ。それなのに日本は、長らく国際社会での存在感が薄く、もっと経済力が弱くて地理的にも戦略的重要性の薄い諸国の後塵を拝してきた。

しかし、もし宇宙人が地球をつぶさに観察し、影響力の強い国を探したら、いったいどこの国が選ばれるだろう。今度のG7サミットは、日本の影響力を世界に知らしめる貴重な機会だ。めったにないチャンスが、またとない試練の時期に巡ってきたのである。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル157円台へ上昇、34年ぶり高値=外為市場

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story