コラム

弾劾で追い込まれたトランプが再選を投げ出す?

2019年10月29日(火)18時20分

弾劾プロセスが本格化すれば不適切な行動がさらに明るみに? LEAH MILLIS-REUTERS

<ウクライナ疑惑で窮地のトランプは、追及を免れるために大統領選への出馬を取りやめる......かもしれない>

歴史上有数の「あり得ない」大統領が別の「あり得ない」大統領をマフィアまがいのやり方で脅した──いまアメリカで持ち上がっている大統領弾劾騒動は、ここから始まった。

アメリカでは2016年、テレビのリアリティー番組で人気者になった目立ちたがり屋の不動産王が、同世代で最強のエリート政治家(元ファーストレディーで、閣僚や上院議員も歴任した)を退けて大統領の座をつかんだ。一方、ウクライナでは今年4月、人気テレビドラマで政治腐敗に異を唱えて大統領に上り詰める高校教師の役を演じた41歳のコメディー俳優が、なんと本当に大統領に当選した。

2つの突拍子もないストーリーが交差すれば、そこに大きなカオスが生まれるのは必然だったのかもしれない。こうして、いまアメリカは「ウクライナ疑惑」で揺れている。1974年にウォーターゲート事件でリチャード・ニクソンが辞任に追い込まれて以来、アメリカの大統領の座がこれほど危うくなったことはなかった。

ウクライナ疑惑とはひとことで言えば、トランプ大統領が今年7月にウクライナのゼレンスキー大統領に電話し、来年の米大統領選で最大のライバルと目されるバイデン前副大統領と息子のスキャンダルを捜査するよう要求したというものだ。

引退してテレビ局経営者に?

しかも、トランプは軍事援助と引き換えに、ウクライナ側に言うことを聞かせようとしたとされる。高官たちの長時間の宣誓証言から見えてきたのは、トランプが次第に脅しを強めていった経緯だ。

米駐ウクライナ代理大使のビル・テイラーと元ホワイトハウス高官のフィオナ・ヒルが下院で行った証言によれば、トランプ側はまず、バイデン親子への捜査を正式に開始しなければ、ゼレンスキーが望むホワイトハウスでの首脳会談はナシだというメッセージを明確に伝えた。ゼレンスキーはこの求めに応じず、会談は実現しなかった。

すると、トランプは脅しを強めた。要求に従わなければ武器支援を行わないとの意向を示し、それでも相手が従わないとみるや、捜査を始めなければ4億ドル近い軍事援助も行わないとはっきり伝えた。

2人の高官が宣誓証言で嘘を述べていない限り、現職のアメリカ大統領が選挙を自らに有利に運ぶ目的で外国指導者の力を借りようとし、そのために露骨な脅しをかけていたことになる。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story