コラム

復活Vタイガー・ウッズは、アメリカンドリームの体現者

2019年04月25日(木)11時00分

マスターズ優勝決定のパットを決め、全身で喜びを表現するウッズ LUCY NICHOLSONーREUTERS

<14年ぶりにマスターズ優勝を果たした元天才児ウッズはどん底からの逆襲で新たなヒーロー伝説の主人公に>

タイガー・ウッズは、トランプ米大統領とオバマ前大統領を団結させることができる唯一のアメリカ人かもしれない。4月14日、男子ゴルフのメジャー大会第1戦マスターズ・トーナメントで劇的な復活優勝を果たし、チャンピオンに贈られるグリーンジャケットの袖を通した直後、トランプもオバマもツイッターで祝福した。

トランプは、この復活劇を「ファンタスティックな一世一代のカムバック」と呼んだ。オバマも、「数々の栄光と苦難の末にマスターズの舞台に戻り、優勝したことは、優れた能力と勇気、強い決意のたまものだ」と称賛した。

ウッズのメジャー大会優勝は11年ぶり。14年ぶりのマスターズ制覇は大会史上最も長い空白期間を経ての復活だ。

この素晴らしい優勝は、家族の絆を考えるといっそう感動的に映る。1997年、マスターズで初優勝した当時のウッズは21歳の天才児だった。それが今は頭の薄い立派なベテランだ。

ウッズは幼い頃から、米軍特殊部隊出身の父にゴルフの英才教育を受けた。その父の死とともに人生の転落が始まる。不倫、セックス依存症、離婚......。

ウッズは現時点では文句なしに史上最高のゴルファーであり、他の主要スポーツを含めても史上最も偉大なアスリートだろう。それでも、父を失った精神的ショックはあまりに大きく、ウッズはSEALs(海軍特殊部隊)式のトレーニングにのめり込んだ。それがゴルファーとしてのキャリアを大きく狂わせる一連のけがの原因になったのかもしれない。

時代を切り開いた「勝者」

ウッズは激しい痛みを伴う腰の手術を4回受けた。痛みから逃れるために鎮痛剤漬けになり、17年には薬物か酒の影響のため、意識がはっきりしない状態で運転して逮捕された。

ほんの2年前には、再びゴルフクラブを振れるかどうかも分からなかった。17年11月時点の世界ランキングは1199位まで落ちた。そこからゴルフをプレーできるレベルどころか、世界で最も権威ある大会で優勝するまで復活するとは、本人を含め世界中の誰も想像できなかったはずだ。

優勝決定のパットを沈め、前回メジャー制覇時にはまだ生まれていなかった息子とグリーンの外で抱き合う姿は、22年前の初優勝当時の父親との抱擁とそっくりだった。こんなシナリオはハリウッドも思いつかない。

社会的影響力の大きさという点で、ウッズに匹敵するアスリートはスポーツの歴史を通じてもマイケル・ジョーダンぐらいしかいない。ウッズはゴルフを真のスポーツに変えたからだ。

彼の全盛期、ゴルフ中継の視聴率は野球やバスケットボールといった伝統的な人気スポーツを超えていた。ウッズの才能とプロ意識は他の誰も手が届かない高みにあり、ほとんど誰もがそのプレーにクギ付けになった。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story