コラム

トランプ暴露本『炎と怒り』が政権崩壊を引き起こす可能性

2018年01月16日(火)17時31分

トランプ政権のホワイトハウスは大きく分けて、スティーブ・バノン前首席戦略官・上級顧問の率いるポピュリスト・愛国主義の右派陣営と、イバンカと夫のジャレッド・クシュナー上級顧問、ゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長が主導するグローバル派に二分されていた(後者はイバンカとクシュナーの名前をもじって「ジャーバンカ派」と呼ばれていた)。

アンソニー・スカラムッチがホワイトハウスの広報部長に起用されたのは、メディアへのリーク合戦を通じた内部抗争を根絶するためだった。スカラムッチは背中ではなく「正面から刺す」とうそぶいていたが、わずか11日間で更迭された。

ウルフが取材やインタビューを行った1年半の間、両グループは全面対立を続けていた。この暴露本の陰の共著者がバノンであることはすぐに分かる。ウルフが最も好んだ「情報源」は、ジャーバンカ派を容赦なく罵倒している。バノンが遅ればせながら本書の記述を否定した後も、ウルフはバノンへの愛情と称賛を繰り返し強調した。「私はスティーブが好きだ」「スティーブの思想は私と相いれないが、洞察力は素晴らしい」

本書は細かい事実の正確性に問題があるとしても、核心部分の記述そのものには十分な信憑性がある。ホワイトハウスの関係者はほぼ全員、政権内部の雰囲気が驚くほど見事に再現されていると語る。保守派のコメンテーター、ジョナ・ゴールドバーグはこう指摘する。「ウルフの描写は風刺漫画のようなもの。ただし、漫画の誇張表現がある種の真実を捉えたものでなければ、風刺にならない」

そこで本書から最も重要な「真実」をいくつか紹介しよう。

■予想どおり

『炎と怒り』は今後数カ月間、アメリカでベストセラーの第1位を続けるはずだ。ただし個々の会話を除けば、驚きの新事実はない。大半のエリート層が大統領選の初期に予想していたことを追認しただけだ。本書に描かれたトランプは愚かで非常識で、途方に暮れている。

特に常軌を逸していると思えるのは、大統領がシークレットサービスの警護を嫌がり、寝室に引きこもって鍵を掛けようとする場面だ。トランプの行動は、嫌な知らせを聞きたくなくて両手で耳を塞ぐ子供を連想させる。

■素人以下

ウルフのジャーナリストとしての評判やトランプ政権のメディアへの敵対姿勢、内部リークの連続を考えると、この人物がホワイトハウスの内部を自由に歩き回れたのは驚くべきことだ。本書発売前のインタビューによると、ウルフ本人もほとんど監視なしで歩き回れることにびっくりしたらしく、この夢のような状況が終わらないことを毎日祈りながら幸運に感謝したという。

ウルフが何の制限も受けずに政権関係者に取材できたのは、ホワイトハウスがとてつもなく無能だったからだ。ワシントン・ポスト紙によると、ウルフは「話を聞くために必要なことは間違いなく何でもやった」と語ったが、どうやらそれは「ハロー」と言うことだったらしい。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

-中国が北京で軍事パレード、ロ朝首脳が出席 過去最

ワールド

米政権の「敵性外国人法」発動は違法、ベネズエラ人送

ビジネス

テスラ、トルコで躍進 8月販売台数2位に

ワールド

米制裁下のロシア北極圏LNG事業、生産能力に問題
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 8
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story