コラム

来年秋に迫った米大統領選の予備選がまったく盛り上がらない理由

2023年07月19日(水)11時40分

多くの容疑で刑事被告人となっているトランプだが共和党支持者の過半の支持を得ている Marco Bello-REUTERS

<バイデンとトランプが他候補を圧倒しており、前回と同じく「バイデン対トランプ」で本選が戦われる可能性が高い>

2024年11月の大統領選まで、1年3カ月となりました。通常は、「選挙前年の夏」ともなれば、両党ともに候補が出揃って予備選の前哨戦が盛り上がってもおかしくない時期です。ところが、今回はそうではありません。一種の「無風状態」になっています。

政治サイト「リアル・クリアー・ポリティクス」が公表している直近1カ月の全国世論調査の平均値を見てみますと、

■民主党
▽ジョー・バイデン(現)......63.5%
▽ロバート・ケネディ・ジュニア......14.6%

■共和党
▽ドナルド・トランプ(元)......53.7%
▽ロン・デサンティス......20.2%

となっており、民主党ではバイデン、共和党ではトランプがどちらも過半数を獲得しており、2位にも大差を付けています。このままでは、2020年と同じ「バイデン対トランプ」という組み合わせで本選が戦われる可能性が濃厚です。

バイデンを中心とした民主党の挙党態勢

まず民主党ですが、2位のケネディ候補は、ジョン・F・ケネディ(JFK)の弟で、兄の政権に司法長官として参画、兄が暗殺された後は、大統領を目指したものの1968年に暗殺されたロバート・ケネディ(RFK)の長男です。血筋は抜群で知名度もあるのですが、政治的な主張は「ワクチン陰謀論」が中心であり、本格候補とは言えません。

一部には、2000年の選挙で環境運動家のネーダー候補が本選に立候補したように、ケネディ氏の存在が分裂選挙を招いて、共和党を利する可能性が取り沙汰されています。ですが、その可能性は薄いと考えられます。とにかく、民主党内は現職バイデンを中心とした挙党態勢が成立しています。

理由としては、最高裁の過半数を保守派に取られ、どんどん保守的な判例変更が進められていることへの危機感から「絶対に大統領ポストを死守する」という求心力が働いているのが大きいと思います。これに加えて、コロナ禍後の経済が堅調であり現職への不満が少ない、ウクライナ支援で党内が結束している、という事情があります。

一方の共和党ですが、トランプが過半数を超える支持を受けている中で、待望論のあったデサンティス・フロリダ州知事への支持が低下しています。一時は30%を超えていたのが、ここへ来て20%を切る気配となり、選挙資金も集まっていないとか、選対のリストラをしているなどの報道も出ています。

デサンティス候補の場合は、トランプより「さらに右のポジション」を取って、トランプは「十分に保守ではない」とか、トランプを担ぐのは「共和党の負けパターンになる」などと威勢の良いことを言っていました。ですが、保守層からはトランプほどの「カリスマ」が感じられないとしてソッポを向かれた格好です。

またコロナ禍が過去になるにつれて、フロリダ州では「マスクやワクチンの義務化を禁止」して、保守派から喝采を浴びたストーリーが過去のものになっているのも、デサンティス候補には不利に働いています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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