コラム

住所もヤバければ、名前もヤバい、マイナカード問題の難しさ

2023年06月28日(水)19時00分

最大の問題は、そもそも住所のルールが一定でないということです。戸籍は番地までで「号」はないという問題がまずあります。つまり「1丁目1番」までで、「1号」は入りません。では、住民票はどうかというと、一応「号」まで入るケースが多いと思います。問題はその先で、集合住宅の「部屋番号」を住所の枝番として入れるかどうかは「任意」という自治体が多いようです。

つまり、「1丁目1番1号Aマンション101号室」に住んでいる人の住所データについて、「1丁目1番1号Aマンション101号室」で統一するのか、いちばん簡単な「1−1−1−101」にするのか、あるいは部屋番号は入れないで「1−1−1」にするのか決まっていないのです。

あとは下宿や間借りをしている人の場合に「誰々方」という表示をする場合があります。この「方」というのは、郵便の配達住所としては必要な場合がありますが、戸籍には入れないし、住民票も普通は登録しません。ですが、これもハッキリさせておくべきだと思います。

そう考えると、せっかく巨額の経費を投入してシステム開発をしても、そもそも基本となるデータが不揃いであり、入力ミスをほかのデータとの照合などで修正するのも難しいとなると、DXによる省力化、生産性向上には限りがありそうです。

フリガナも英文表記もない

河野大臣は「AIを使って住所表記の『ゆれ』を吸収する」などと発言していますが、「日本の住所はヤバい」という問題の深刻度を本当に認識しているのかは怪しいと言わざるを得ません。

マイナで問題なのは「住所」だけではありません。実は「名前」も「ヤバい」と言えます。まず、日本人の場合ですが、マイナカードに入るのは、漢字(またはカナ混じり)の戸籍名だけです。恐ろしいことに、カタカナのフリガナも、英文ローマ字表記もありません。フリガナがないということは、銀行の口座名義人との自動紐付けも、名寄せによるチェックもできないということです。

保険証データとの照合も、こうした問題のために「手入力」が起きているのなら問題です。また英文ローマ字表記がないということは、パスポートの英文表記との照合は不可能です。仮に現在のマイナのシステムは、このままでは使えないということになり、巨額の資金を投入してシステムを改修するのであれば、マイナにカタカナのフリガナとローマ字表記も入れて、運用するようにするということも考えられます。そうすれば、個人の特定ということの精度は高まります。

とにかく日本の場合、住所も名前も「ヤバい」のであって、本来はシステムを作る過程で制度も変更して、相当な程度クリーンなデータにしてから登録するという運用が考慮されるべきだったと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ財務省、今年の経済成長率予想を2.2%に小幅上

ビジネス

中国製造業PMI、7月は49.3に低下 4カ月連続

ワールド

米、カンボジア・タイと貿易協定締結 ラトニック商務

ワールド

交渉未妥結の国に高関税、トランプ氏が31日に大統領
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 10
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story