コラム

再選へ向けてバイデン出馬、その多難な前途

2023年04月26日(水)14時00分

25日朝の動画メッセージで大統領選への出馬を表明したバイデン OFFICIAL YOUTUBE ACCOUNT OF JOE BIDEN/REUTERS

<高齢批判に共和党の若手台頭、足元の民主党からは相棒ハリスへの疑問符が>

ジョー・バイデン米大統領が、2024年の大統領選に出馬して再選を目指すと表明しました。発表の方法は、自分のナレーションを主体としたイメージ動画を公表するという形態で、ライブ演説ではありませんでした。そのタイミングは、4月25日(火)米国東部時間午前6時ということで、各局の朝7時からのニュースに合わせたものです。なお、この日に出馬表明があるということは、週末からリークがされていたので、サプライズはなかったと同時に、強烈な反発はないことを確認しての動画公表となっています。

ちなみに、あらかじめ用意された動画で出馬表明を行うというのは、2011年に当時のオバマ大統領が取った方法と同じです。また、この時のオバマが出馬宣言から1年以上の間、公務に専念して選挙運動を控えた前例からすると、バイデンも同様に当分の間、選挙運動は封印するかもしれません。オバマの場合は、リーマン・ショック後の景気回復が遅く、それ以上に雇用の回復が進まないことで国民の厳しい批判があり、そのような対応となったと思われます。

それはともかく、この「バイデン出馬」ですが、簡単に現職再選ということにはならないと思います。その行く手には大きな3つの困難が立ちはだかっているからです。

1つは、高齢批判です。80歳のバイデンは現時点でも歴代大統領の中で最高齢であり、NBCの世論調査によれば、アメリカの有権者の70%はバイデンの再出馬に反対しており、その主要な原因は高齢だからということです。民主党支持者の中でも51%が反対しています。その中には、健康や判断力低下への不安というよりも、デジタル社会の問題を理解しない、近い将来の温暖化の危険性について当事者世代でないなど、ミレニアル世代以下の「彼は自分たちの代表ではない」という切実な思いも含まれているようです。

そんななかで、ここへ来て連邦議会民主党の重鎮、ダイアン・ファインスタイン上院議員(カリフォルニア州選出、89歳)が急速に健康と判断力の低下を見せており、にもかかわらず上院の議席に居座っているとして激しい批判を浴びています。この問題の進展次第では、同議員への批判が大統領に飛び火するかもしれません。それ以前の問題として、共和党が若い候補を立ててきた場合には苦戦が予想されます。

G7前に訪日したデサンティス

2つ目はその共和党の動向です。バイデンは2020年の選挙においては、「自分しかトランプを止められない」という思いで統一候補になったとされていますし、今回も同様の思いがあるようです。確かに、現時点では共和党内の支持率を調査しますと、トランプが1位となっています。ですが、今回「高齢のバイデンが出馬宣言をした」とことを受けて、もっと若い候補なら勝てるという待望論が共和党内で上昇する可能性は十分にあると思います。特に大口献金者などはそうした動きをするでしょう。

その受け皿としては、やはりロン・デサンティス、フロリダ州知事(44歳)が最有力です。デサンティス知事は、トランプに似た政策を主張しており、特にロシア・ウクライナ戦争においては「戦争ではなく単なる国境紛争」だなどとウクライナに冷淡な姿勢を取っていました。ですが、ここへ来て「プーチンは戦争犯罪人」とするなど、発言をシフトしてきています。今回、訪日してG7直前の岸田首相と会談することで「自分は外交にも強い」というアピールをした上で、出馬宣言をする構えのようです。

共和党は現在、トランプ前大統領、ヘイリー元国連大使に続いて、アフリカ系のスコット上院議員が事実上、大統領選に名乗りを上げています。そんな中で、今回の「バイデン出馬」というのは、デサンティスの訪日というニュースを「ヘッドラインから追いやる」ことと、デサンティスの出馬宣言に先んじることを狙ったものと思われます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が戦略巡航ミサイル、「超大型弾頭」試験 国営

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story